ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

SDGsの誤解を解く、SDGsには「女性の能力強化も含まれる」と知っていますか

SDGs(持続可能な開発目標)のロゴ

今回は、ある中小企業の社長同士の会話を通じて、誤解も多い「SDGs(持続可能な開発目標)」について、少し理解を深めて頂ければ、と思っています。

「SDGsという言葉は良く聞くけれど、イマイチ良く解っていない」という方は多いのではないでしょうか。このブログを読んで頂ければ、何となくでも、「簡単に言うと、SDGsとはどういうものなのか?」「SDGsを、どんなものとして捉えれば良いのか?」といった点については理解して頂けると思います。

中小企業の社長同士のSDGsに関する勘違い会話

さて、「どうして、こんな記事を書こうと思ったか」と言いますと、先日、こんな経営者同士の会話が行われる場に立ち会った為でした(会話は少し変更しています)。

A社の社長「うちも、これからはSDGsを重視していこうと思っているんだ。」

B社の社長「注目されてますからね。さすがですな。で、どんな事を具体的に?」

A社の社長「女性への教育をしようと思う。途上国でコンピューター関係でも何か考えてみようと思っている。」

B社の社長「女性だけを対象にするなんてナンセンスですよ。男性と女性、両方を平等に扱わなきゃ。それに、どうせ教育を手がけるなら、環境全般に関する幅広い教育を受けさせた方が結果に繋がるんじゃないですか?」

A社の社長「そんな事はない。うちが出来るのは、こうした分野が一番だ。君の所こそ、高齢化がらみで何か考えてみたらどうなんだ。」

B社の社長「話を変えないで下さい。今は、SDGsの話だったでしょう。」

 

皆さまは、この会話がかみ合っていない理由、お解りですか?

SDGsについて勉強された事のある方にとっては当たり前の事なのですが、「なんとなく」、SDGsを知った人の中には、SDGsを「環境問題の延長線上の用語」として捉えている方も少なくないように思います。

すなわち、「地球に悪いことを企業はしてはいけない」といったメッセージを発しているのが、SDGsであると思っている方が少なくない、という事です。

それも間違ってはいないのですが(だからこそ、誤解したままの人が多い気もします)、SDGsは、それだけの概念ではないのです。

なお、これは、日本語の命名にも問題があると私は思っておりまして、「持続可能な開発目標」と言われると、確かに、何らかの「(資源やインフラなどの設備の)開発」において、企業が悪影響を与えるような事はやめなければならない、といったニュアンスを感じても仕方がない気がするのです。

特に、経営者は、環境問題への取り組みで頭を悩ませてきた経緯もありますので。

SDGsの生い立ち

SDGsの中身を説明する前に、簡単に、SDGsの生い立ちについて説明します。

まず、SDGsは、「Sustainable Development Goals」の略であり、日本語では「持続可能な開発目標」として紹介されています。発音(読み方)は、「エスディージーズ」です。

そして、実は、SDGsは、MDGsというものの後継です。

このMDSg、日本の経営者の間ではあまりメジャーにならなかったのでご存じない方も多いかもしれません。

ですが、MDGsについて知っておくと、SDGsの理解が楽になります。

MDGsは、「Millennium Development Goals」の略で、「ミレニアム開発目標」として日本では紹介されています。

細かい説明は省きますが、MDGsでは、極度の貧困と飢餓の撲滅など「国際社会が取り組むべき8つの目標」が設定されていました。

目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅
目標2:初等教育の完全普及の達成
目標3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上
目標4:乳幼児死亡率の削減
目標5:妊産婦の健康の改善
目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止
目標7:環境の持続可能性確保
目標8:開発のためのグローバルなパートナーシップの推進
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html)

そして、これらは、2000年9月に国連ミレニアム・サミットで採択された国連ミレニアム宣言を基にまとめられました。

ポイントは、MDGsが、「開発分野における国際社会共通の目標」であり、「期限付きで具体的な成果を求めようとしている」概念であった、という事です。

これが、SDGsにおいても、継承されているのです。

簡単に言うと、SDGsとは

もうお解りかと思いますが、SDGsも、経営において重視すべき概念を定めた用語ではないのです。

SDGsは、2030年を年限とする「国際目標」なのです。

すなわち、SDGsは、MDGsの流れを引き継ぎ、「国際社会が達成すべき『様々な分野』における、『目標』を設定したもの」なのです。

なお、これらの目標は、2015年9月の国連サミットで採択されました。日本もG7伊勢志摩サミット(2016年)において、「国内外の実施にコミットする」と発表しています。

そして、SDGsでは、17もの「目標」が定められています。少し長くなりますが、載せておきます。

目標1. あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
目標2. 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
目標3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
目標4. すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する
目標5. ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
目標6. すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
目標7. すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
目標8. 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
目標9. 強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
目標10. 各国内及び各国間の不平等を是正する
目標11. 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
目標12. 持続可能な生産消費形態を確保する
目標13. 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
目標14. 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
目標15. 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
目標16. 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
目標17. 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

多くの方がイメージされている「海洋プラスティックごみ対策」「気候変動対策」といった環境に関するトピックスと同じように、「防災」「女性」「保健」といった要素も含まれているのです。

環境とは関係ないSDGsに関する企業の取り組みもある

先ほどの社長の会話に戻りましょう。

会話が食い違っていた理由は、もうお解りだと思います。

A社の社長は、「途上国への教育」「女子の能力促進」といった点でSDGsに取り組みたいと話していた訳です。

このA社が取り組もうとしていた点については、目標4や目標5の詳細項目として、

「4.b 2020 年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国、ならびにアフリカ諸国を対象とした、職業訓練、情報通信技術(ICT)、技術・工学・科学プログラムなど、先進国及びその他の開発途上国における高等教育の奨学金の件数を全世界で大幅に増加させる。」

「5.b 女性の能力強化促進のため、ICTをはじめとする実現技術の活用を強化する。」

などと書かれていますので、SDGsへの取り組みの方向性として間違ってはいないのでしょう。

A社は、途上国での工業ビジネスも手がけているので、こうした分野が取り組みやすい所に見えたのでしょう。

もっと適切なアクションがあるかもしれませんが、何にせよ、自社が出来る所から取り組もうとする姿勢は評価されるべきでしょう。

また、B社の社長に勧めていた高齢者関係への取り組みとしては、目標11の詳細に、

「11.2 2030 年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子ども、障害者及び高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、すべての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。」

などとありますので、こういった点での取り組みを指していたのだと思われます。

いずれも、SDGsを深く知らない経営者にとっては、ピンと来ない点であったと思われます。

この為、B社の社長は、最初、「教育」と聞いて、「環境問題を改善する為の教育」だと早合点してしまい、更に、「高齢者」と聞いて、話を誤魔化されているように感じてしまったのでしょう。

これほど解りやすく食い違う事はあまりないと思いますが、このように理解がズレたままSDGsに関する話をしてしまっている方は多いのではないかな、とも思います。

SDGsについて覚えておくべきこと

最後に、日本政府による「SDGsを推進するための取組一覧」を掲載した上でまとめ、今回のブログを終わりにしたいと思います。

①あらゆる人々の活躍の推進
②健康・長寿の達成
③成長市場の創出,地域活性化,科学技術イノベーション
④持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
⑤省エネ・再エネ,気候変動対策,循環型社会
⑥生物多様性,森林,海洋等の環境の保全
⑦平和と安全・安心社会の実現
⑧SDGs実施推進の体制と手段
(平成31年1月の外務省資料など)

このブログの前半で解説させて頂いた通り、SDGsが「(国際的な)目標である」という事と、「これだけ広い範囲の分野にまたがった話だ」という事だけでも覚えておいて頂ければ、日頃の会話で恥をかく事はないと思います。

もちろん、共感出来る所・自社が取り組みやすい所からで良いと思いますので、自社での取り組みもご検討下さい。ちょっとした意志決定の際に考慮に入れるだけでも、多くの企業が関与すれば、大きな変化に繋がっていくのではないか、と思います。