「AIが人の仕事を奪う」という話が真剣味を持って話されるようになって、早、数年が経とうとしています。
「労務コストを下げる為の切り札」としてAIを見ている企業もありますし、労働者の側からは「自分達の失業に繋がる脅威」として認識されている事もあるように思います。
しかし、経営改善の現場の視点では、
「AIよりも、先に注目すべき技術がある」
と感じ続けています。
なぜならば、ほとんどの職場(業務)において、「AIが実際に人の仕事を劇的に奪うようになるのは、(少なくとも)まだ先だから」です。
そして、「他の技術によって、機械が人の作業を代替する」という事を目にする機会が増えているからなのです。
その既に実用化されている技術こそ、「RPA」です。
しかし、この大きなインパクトを持った技術であるRPAを良く理解している一般の方は、驚くほど少ないように感じます。
そこで、今日は、このRPAについて簡単に紹介させて頂きたいと思います。
RPAは「Robotic Process Automation」の略なのですが、この用語について細かく説明するよりも、「RPAで何が出来るか」という例をいくつか見て頂いた方が早いと思います。
例えば、RPAでは、
・エクセルで送られてきたデータをチェックして、社内システムに自動で入力する。
・受注メールの内容を確認し、システム上での受注処理を自動的に行う。
・社外のウェブサイトを巡回して最新の情報を取得し、エクセルなどの資料を最新の状態に更新し続ける。
・社内システムから情報を取得した上で集計や加工を行い、関係者に自動で報告メールを送る。
※RPA導入支援センターのRPAの事例より。
といった事が実現できます。
このような作業の為に、毎日、長い時間をかけてパソコン作業している人は多いのではないでしょうか。
それらの作業が、RPAを活用すると自動化できてしまう訳です。
RPAの凄さ、少しはイメージして頂けたでしょうか。
そして、これらのRPAの例を読んで、
「あれ?これって、人の仕事が機械に奪われるって事なのでは?」
と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
その通りです。
巷では、「AIが人の仕事を奪う」と騒がれていますが、実際には、RPAも人の仕事を奪う可能性があります。
そして、現時点ではAIで自動化できる業務の幅よりも、RPAで自動化できる業務の幅の方が遙かに広いのです(対象が異なるので、単純に比較は出来ないのですが)。
ですから、もし、「機械に仕事を奪われる」という驚異について危惧するのであれば、今、強く意識すべきなのは、「AIではなく、RPA」であるべきなのです。
しかし、RPAが既に実用化されており、多くの企業で導入済であるにも関わらず、「RPAによる人減らし」については、今のところ、大きな問題になっていません。
不思議ですね。
しかし、それには理由があるのです。
現時点で既にRPAを導入し、十分な結果を出している企業は、先進的な企業が多いと言えます。
そして、そのような企業は、RPAを導入するにあたり、社内の優秀な部門が検討を行ったり、しっかりとしたコンサルティング会社を使いこなしていたりします。
その結果、そのような企業の多くでは、「RPAによって社員の仕事が減っても、社員に他にやってもらう仕事が次々と見つかっているので、人を減らす必要がない」という事が起きているのです(労働者の仕事が、より付加価値の高い仕事にシフトしている)。
しかし、今後も、そういった流れが続くとは限りません。
これから更にRPAの導入が広がると、「単純な人減らしの道具としてRPAを導入する企業」が増えてくる可能性はあります(もちろん、そのような目的の為にRPAを導入する事は可能です)。
そうなった時、RPAが「人切りの道具」として有名になってしまうのかどうか。
RPAの改善効果を知っており、また、日本企業のRPA導入がもっと進んで欲しいと考えている身としては、少し不安を感じながら様子をうかがっています。
ちなみに、海外の企業で、熱心にRPAに取り組んでいる企業は少なくありません。
この為、日本企業のRPA導入が遅れてしまうと、相対的に、日本企業の競争力が低下してしまう可能性があるのです。
ですから、日本企業のRPA導入を止めない為にも、「RPAが人の仕事を奪うことはあり得る」という理解をした上で、それ以上に、「RPAを導入するのであれば、人切りの道具としてではなく、より付加価値の高い仕事に労働者の仕事をシフトさせる、という目的の為に導入するのが当たり前」という理解が常識になる事を願っています。
せっかく自社と相性が良い従業員がいるのであれば、その従業員を活用して、より高みを目指して欲しいですからね。
そのようなRPA導入が日本に定着する事を願って、この記事を終わりにしたいと思います。