ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

「AIが業務改善を実現する」に騙されない為に!RPAとの混同に注意

RPAとAI

AIを導入する事で業務改善を実現する」と言われると、本当に実現できそうな気がしてきませんか?

これは、経営者の方でも同じようです。しかし、「実は、AIという言葉で、正常な思考がストップしてしまっているだけ」というケースが少なくありません。

特に最近は「AIとRPAを混同してしまっている」、というケースが多く見受けられます。

そこで、今日は、「RPAとAIの違い(見分ける方法)」や「なぜ、AIばかりが注目されているのか」といった点について取り上げてみたいと思います。


ある時、年輩の経営者の方から、次のような話を伺いました。


社長「AIによる業務改善に取り組む事にしたよ。」

この社長がIT音痴である事を知っていたので、少し不安を感じながら、詳細を聞いてみる事にしました。

私「そうですか。具体的には、どのような業務にAIを導入する予定ですか?」

社長「基本的には、全部門の業務だ。」

私「それは凄い。しかし、御社でAIを容易に導入できる業務は限られているのでは。」

社長「それは、もちろんだ。私の仕事は機械なんかに代わりが出来る訳がない。しかし、管理職以外の作業は、かなりの部分を機械に任せてしまっても大丈夫のようだ。」

私の不安は大きくなってきました。

私「社長、昨今のAI技術の発展には目を見張るものがあります。しかし、実際にAIに業務を任せる難易度は決して低くありません。大丈夫ですか?」

社長「問題ない。出入りのIT営業に分析させた所、うちの平社員がやっている作業のほとんどは、機械が代わりに作業出来るらしい。いや、凄い時代だな。」

この時点で、私は、この社長が勘違いをしている事を確信しました。

しかし、万一の事もあります。慎重に話を進める事にしました。

私「例えば、どんな業務を機械に任せる予定ですか?」

社長「データの打ち込みとかがメインだな。うちの会社は、結構、そういう作業が多いんだよ。」

私「…」

間違いありません。社長の勘違いです。

私「社長。失礼ですが、それはAIの領分ではありません。」

社長「?」

ちょっと不機嫌そうになって、社長は言葉を続けます。

社長「何を言ってるのかね。うちに出入りしている営業が、AIを使った製品を売り込みにきて、それを採用する事にしたんだ。だから、間違いない。」

私「もしかするとAIも一部で使われているかもしれませんが、御社が導入される技術の中核はAIではありません。」

社長「機械が人の代わりに動いてくれるようになるって言ってたぞ。」

私「はい。それはRPAだと思われます。」

社長「RPAだと?」

私「はい。」

社長「…」


この後、この社長には、RPAとAIについて解説させて頂きました。

そして、その後、提案資料なども確認させて頂いた所、出入りの営業が「AI技術と連携できるRPA」に関する製品を、「AIに関する素晴らしい製品」という言い方で社長に勧めていたことが解りました。

その営業は、「AI」という用語を前面に出す事で、この会社との商談をうまくまとめていたのです。


さて、この会話を読まれる途中で、皆さまは、この社長が導入しようとしていたのが「RPA」であり、「AI」の案件ではないという事にお気づきになられましたでしょうか。

お気づきになった方は、お見事です。

しかし、多少、ITに詳しい方でも、AIとRPAを混同されている方も多いようです。

そこで、今日は、まず、「AIとRPA」の違いについて簡単に解説させて頂きます。


まず、AIについてですが、AIという概念は、実は決して新しいものではありません。

昨今は「ディープラーニングを活用したAI」ばかりが注目されていますが、別に、人工知能に類するものであれば、それら全てをAIと呼んで問題はありません。

ですから、「AI」と一言で言っても、かなり幅広い技術がAIには含まれます。

そして、業務改善の為に導入される「AI」に期待される働きは、「人が頭で考える必要のある工程を、機械に代替させる」という事です。

AIの日本語訳が「人工知能」な訳ですから、「頭脳」が期待されている訳ですね。


次にRPAについてですが、この言葉が有名になったのは、せいぜい、この10年といった所でしょう。

そして、業務改善においてRPAに期待される働きとは、「人が行っている作業(主にパソコン作業)を機械に代替させる」という事です。

基本的には、マニュアル化できる作業を機械にやってもらうイメージです(ただし、うまく導入すると、かなりの所までを任せる事ができます)。


ですから、AIとRPAでは「期待される機能」が大きく異なるのです(AIとRPAの違いについて、より詳しくお知りになりたい方は、こちらの記事をご覧下さい:AIとRPAの違い)。

そして、もうお解りだと思いますが、冒頭で取り上げた会話において、「社長が機械に期待している内容」とは、「社員がパソコンで行っている作業を機械に任せる」という事でした。

ですから、AIではなくRPAによる効果が期待されていた訳です。


なお、このようなケースは決して珍しくなく、多くの会社ではAIよりもRPAの方が、改善効果が期待出来る事が多くあります。

しかし、経営者向けに発売される製品には、「AI」という単語を強調した製品が多く存在します。

それは、なぜか。

実は、「AIというワード(用語)を出した方が、商売がしやすいから(顧客のウケが良いから)」という背景(理由)があるのです。


AIという用語を使った営業では、次のような会話が成立する事があります。


営業「この製品を導入して頂くと、凄い事が出来ます。」

顧客「なぜ?」

営業「AIが凄い事をやってくるのです。」

顧客「なるほどね~(良く理屈は解らないが、納得してしまう)」


これが、AIという用語を使わないと、そうは行きません。


営業「この製品を導入して頂くと、凄い事が出来ます。」

顧客「なぜだ?」

営業「うちの製品の性能が良いからです。」

顧客「具体的に説明してくれ。理由が分からないと買えないよ。」

営業「うちの製品の仕組みは…(細かい説明が続く)」


そして、営業の説明に顧客がよほど納得しない限り、商談は進みません。


要するに、AIには、「良く解らないが、実現出来てしまうのだろう」と思わせてしまう効果があるのです(だからこそ、AIはブラックボックスと言われることもあります)。

実際、冒頭でご紹介した例でも、社長を説得する為に、営業は「AIだから」という言い方をしていました。


AIの進化スピードは凄まじく、かなり高度な判断すら出来る所まできています。

しかし、経営者の方が期待されているレベルに到達しているか?と聞かれると、一部の典型的な業務を除いて、まだまだ難しいのが現実です。

これに対して、RPAは、十分に実用化レベルに到達しています。社員の業務の一部を、機械に任せる事が問題なく出来ます。

ただし、AIに期待される内容をRPAに求められても、RPAでは対応は出来ません。

あくまで、この二つは全く違う技術であり、必要に応じて使い分ける必要がります(連携して使う事はあります)。

経営者の方には、この2つの技術の差を十分に理解して頂き、ぜひ、適切な技術を使いこなして頂きたいと願っています。