皆さんは、楽しみにして行ったレストランのトイレが汚かったら、どう思われますか?
「そんな店には行きたくない」「がっかりする」などの意見が多そうですね。
でも、本当に?
絶対に?
今日は、そんなお話です。
少し前、小さなレストランに行きました。
女性と一緒です。
そのレストランは、シェフの腕が良いので有名なビストロ(気軽なフレンチ)で、訪問するのは数年ぶりでした。
以前に行った時は大繁盛しており、味も良かったので、今回、希望の日時で予約が取れた事に驚きながらも期待して行きました。
しかし、入ってみると、店はガラガラ。びっくりしました。
不安になりながらも、食べたいメニューを頼みました。
味は変わらず美味しく、ホッとしながら食事を終えました。
一緒に行った女性も、楽しんでくれているようで、胸をなで下ろしました。
ただし、メニューの数は絞り込まれていて、選ぶ楽しみはありませんでした。
そこが気にはなりました。
食事が終わった後、シェフと少し話をさせて頂いたところ、今はシェフが一人で店をまわしているのだそうです。
「店がガラガラだったのは、お客の数を絞っているのかな」
「昨今の人手不足で、求人も大変なのだろうな」
などと考えながらお会計をしました。
そして、連れの女性が最後にお手洗いに行き、店を出ました。
ここまでは良かったのです。
出た後で、「美味しかったね」と女性に話しかけると、どうも様子が変です。
先ほどまでハッピーな雰囲気だったのにも関わらず、顔色が悪い。
何かあったのだな、と感じました。
聞いてみると、「トイレが言えない位、汚かった」のだそうです。
そして、「気分が台無し」「もう、あの店には行きたくない」と続きました。
恐らく、男性シェフ一人で運営するようになってから、そうした部分に十分な配慮が出来なくなったのでしょう。
店がガラガラであったのも、そうした事が原因だったのかもしれません。
さて、少ししてから、もう一度、同じ女性と食事に行く事になりました。
今度はエスニックです。
そして、彼女の希望の条件に当てはまる店を選んだ結果、現地風のお店になりました。
彼女には、「屋台風のエスニックの店だけど、味は最高の店に連れて行く」と伝えて、来て貰いました。
もう、話が読めてきたでしょうか。
前回同様、楽しく食事をして、最後に彼女はお手洗いに行きました。
店を出た後、「2回連続で、お手洗いが汚い店でごめんね」と話しかけてみました。
今回の店のトイレが綺麗とは言い難いことを、知っていたのです。
しかし、彼女の返答は、「あ、そういうとそうだね」「でも、今日の店は美味しかったし、また来たい」というものでした。
笑顔で楽しそうにしています。
さて、今日の本題です。
皆様は、この「差」を、どうお感じでしょうか。
「当然の結末」
「最初から、汚い店だと思って行ったら、そんなものでしょ」
様々な意見があると思います。
しかし、冷静に考えてみて下さい。
1軒目:料理自慢のビストロ
2軒目:料理自慢のエスニック
料理のジャンルが違うだけで、同じ飲食店です。
それにも関わらず、「お手洗いが汚い」という要素が、2軒目の店では、全くマイナス要素になっていません。
もちろん、この違いは、「その店に『求めるもの』の差」から来ています。
少しだけ専門的に言えば、「ある要素に対する『期待値』」が違うのです。
当たり前のように感じられるかもしれませんが、改めて考えてみると、凄い事だと思いませんか? 場合によっては、怖い気もしませんか?
「料理のジャンルが違うから当たり前だ」と感じられた方には、想像してみて頂きたいことがあります。
もし、1軒目のシェフが、自分一人で店をまわしていく事を決めた時に、それまでの、単なる「ビストロ」から、「屋台風ビストロ」にキャッチフレーズを変えていれば、女性の反応は違ったのでしょうか?
「屋台風ビストロ」では足りないなら、「フランスの荒くれ漁師が仕事後に集まる、味自慢のフレンチ食堂を日本で再現しました」だったら?
もしくは、もっと吹っ飛んで、「老朽化の為に取り壊し予定のビルで、味自慢のシェフが出す高コスパ ビストロ」だったら?
やってみないと解りませんが、料理は全く同じでも、事前に、そのキャッチフレーズが伝わっていれば、彼女の反応は違っていた気がしませんか?
本当に人の心は難しいと思います。
価値判断の物差しは、簡単に変わってしまう事があり得るのです。
特に、客に対して売り込む側の企業は、こうした点について十分に理解しておくべきでしょう。
「全く同じもの」を、「全く同じ値段」で売ったとしても、消費者から、「良い店」と思われる場合もあれば、「嫌な店」と思われる事もある訳ですから。
ぜひ、消費者から「だまされた」と思われない範囲で、こうした点を活用して、消費者の満足度を上げて頂きたいと思います。
ただし、最後に一つだけ。
食品を扱う以上、「衛生面」は絶対に大事です。
飲食に関わる皆様、他のことはともかく、そこだけは高い志で取り組んで下さい。
くれぐれも、ここで書いてあったからと言って、「衛生面は手を抜いても、他の事で客の期待値をコントロールすれば何とかなるだろう」とは、思わないで下さい。
それは、絶対に揺らいではいけない価値観です。