ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

地方銀行の数は多すぎるから、統廃合するしか道はないのか?

地方銀行の看板の乱立


最近、

地方の銀行は多すぎる(から、統廃合を促して数を減らさないといけない)

といった意見を目にする事が増えました。

このような主張は別に珍しいものではありませんし、随分前からあるものです。

そして、「銀行の収益改善」という観点だけで言えば、この意見は間違っていないと私は思います。

しかし、(一般の)企業経営の立場で、政府が、このような動きに加担しているのを見ると、少し違和感を感じる所もあります。

そこで、今日は、

地方銀行は本当に数を減らさないといけないのか?(減らす以外に道はないのか?)

という事を、考えてみたいと思います。


まず、大前提として押さえておかなければならないのは、

「本来、民間企業である地方銀行が経営に失敗して潰れるのは勝手であり、政府が介入するような問題ではない」

という原則です。

もちろん、その原則通りでは困る(地方銀行が無秩序に潰れては困る)点があるからこそ、様々な動きに繋がっている訳ではあります。


では、地方銀行が担っている機能とは、どのようなものでしょうか。

ここでは、以下の3つと考えてみたいと思います。

①預金先としての地方銀行

②金融サービスの窓口としての地方銀行

③地元企業に対する資金提供者としての地方銀行


この中で、地方銀行が破綻した場合に、最も政府が困るのは、①の「預金先」としての機能に関連する部分についてでしょう。

万一、地方銀行が経営破綻してしまうと、預金者の預金が保全されないという事態が発生し、世の中に大きな混乱をもたらします(もちろん、その為に預金保険機構があり、一定金額までは補償されます)。

もちろん、その他にも、地方銀行が経営破綻した場合に想定される混乱には、様々なものが予想されます。

しかし、ほとんどの問題に対しては、事前に混乱を防ぐ為の対策を講じる事は可能です。ですから、民間の経営の自由を侵してまで政府が介入するほどのものではないと考えられます。

逆に言えば、①の「預金先としての地方銀行が潰れては困る」という問題さえクリアできれば、ある程度、地方銀行の好きにさせても良いはずなのです。


こう考えると、

地方銀行から、預金先としての機能を奪ってしまえば良い

という一つの答えが出ます。


従来、

「銀行=お金の預け先」

という意識を持っている方が多いのは理解しています。

しかし、その機能が邪魔をして、地元から地方銀行が無くなるくらいであれば、その機能は外してしまっても良いのではないでしょうか。

具体的には、預金については、他の金融機関へ預金の取り次ぎだけをするような形態が考えられます(地方銀行が共同で預金先となる金融機関を用意する手もあるでしょう)。

そして、各地方銀行は、「自分が必要となる資金を、他の金融機関から借り入れる」という体制へ移行すれば良いのです。

※お客様との関係では、自行の預金であるように見せかけて、他の金融商品にスイッチさせやすいような仕組みにする事は検討しても良いでしょう。


同じく、②の金融機能の窓口業務についても、窓口だけは提供して、実際の業務は他行に任せてしまっても良いでしょう(各行が独立して行うと、無駄が多いのです)。

ちなみに、こうした機能の分離(一般の方々が意識している窓口と、実際の機能を担っている先が違う)例としては、既にゆうちょ銀行と郵便局の関係があります。

未だ多くの方が誤解されていますが、郵便局で「預金(正確には貯金」や各種の金融サービスの手続きを行っても、実際には、郵便局は「ゆうちょ銀行」に取り次いでいるだけです。

しかし、それで困っている人はほぼいないでしょう。

また、コンビニにあるATMは多くの金融機関の窓口としての役割を果たしていますし、三菱UFJ銀行と三井住友銀行は外部ATMの相互利用にまで踏み込んでいます。

それに類似した事を提案しているに過ぎません。


では、なぜ、そこまでして地方銀行の数を減らすべきではないのか?と言いますと、地方銀行の数が減るデメリットとして、

「地方企業への資金の出し手が減る」

という問題があるからなのです。

もちろん、今の地方銀行に、地元企業の精査が出来ているのか?(リスク判断を行う能力があるのか?)という疑問(問題点)はあります。

また、金融機関が合併によって巨大化する事で、以前よりも大きなリスクが取れるようになる(貸し出しを増やせる)という面(可能性)もあります。

しかし、少なくとも、過去の事例を見る限り、資金の貸し手の数が減る事で、資金調達に支障を来す企業が発生する事があるのは、事実なのです。

ですから、経営に携わる立場から言わせて頂くと、「資金提供者としての地方銀行の数」は、正直、減って欲しくないのです。


このような事を踏まえると、単純に、

「地方銀行が潰れると、金融システムが混乱するから、地方銀行は潰れないようにしないといけない」

「地方銀行は統廃合しないと経営が成立しないから、地方銀行の統廃合を促さなければならない」

と考えるのではなく、この記事で提案しているように、

「そもそも、地方銀行が潰れて困るのは何故なのか」

「地方銀行が減るデメリットを防ぐ為に、地方銀行を減らさない為の対策はないのか」

といった点についても、十分な検討が行われて欲しいと思います。

そして、その結果、経営失敗時のリスクやデメリットに手当がされた上で、多くの「資金提供者としての地方銀行」が生き残って欲しいと考えています。

もっとも、この記事で提案しているような形態への移行は、地方銀行自身が望まないかもしれませんし、「地方銀行」という名前も既に相応しくないかもしれません。

しかし、もし、「地元企業の役に立ち続ける為に、独立した地方の名門企業として残っていきたい」と考えている地方銀行の方がいらっしゃるのであれば、この記事で触れたような事も含め、様々な可能性について検討をして頂きたいと思います。