ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

鉄道会社のゴミ箱撤去は受け入れられる?電車マナーとの関係は?

鉄道駅にあるゴミ箱

首都圏では、鉄道駅にあったゴミ箱の撤去が相次いでいます。

東京メトロでは、2022年1月からゴミ箱が全て撤去されました。

東京都交通局も、都営地下鉄と日暮里・舎人ライナーの駅構内に設置しているゴミ箱を5月9日から全て撤去すると発表済です。

JRでも駅単位でゴミ箱を撤去する動きがありますし、私鉄でも西武や小田急などが既にゴミ箱を撤去したと報じられています。

鉄道会社からすれば、ゴミ箱を撤去する事でコスト削減が可能でしょうし、トラブルに対応する手間も無くなる事でしょう(ゴミ箱に不審な物が捨てられていたといったトラブルも実際にあったようです)。

駅にあるゴミ箱を撤去したい気持ちは解ります。


その一方、利用者の立場からすれば、サービスの改悪に他なりません。

そして、以下の4つの視点から、鉄道会社がゴミ箱を撤去する事には問題があるようにも思います。

①駅敷地内でゴミが出るものを販売して利益を上げているのに、そのゴミを引き取らないという姿勢に問題はないのか?

②他の事業者(周囲にある公共施設や商業施設など)にゴミを押しつける事にならないか?

③訪日客から「日本はゴミ箱が少ない」という批判がある中で、更にゴミ箱を減らす事は、日本に対する評価を下げる事に繋がらないか?

④ゴミ箱以外にゴミを捨てる人が増え、余計に様々な問題を引き起こす事になるのではないか?(景観・衛生・治安などの面で)

すぐに思い付いたのが、この4点ですが、他にもあるかもしれません。


このように書くと、鉄道会社側からは、

「なぜ、自分達がゴミ処理の負担を引き受けなければならないのか?」

という反論がある事も予想できます。

そして、その反論に一理はあるようにも思います。

一般的な小売店以上に鉄道会社がセキュリティに気を遣っているであろう事は予想できますし、そもそも、事業の中核が物販ではない訳ですから。

(とはいえ、最近は駅構内での小売り・飲食に、かなり力を入れているように見えるケースもありますが…)


その一方、鉄道という公益性の高い事業を受け持っているからこそ、鉄道利用者の利便性に配慮し、また、街の美化などにも積極的に関与すべきである、という考え方もあるでしょう。

なかなか単純に結論が出せる話ではない気もします。


では、歴史的に見ると、この鉄道のゴミ問題はどのように考えられるのでしょうか。


実は、数年前、年配の方から昔の電車のマナーについて伺った事があります。

その時には、

・昔は、列車の窓からゴミを捨てる人も普通にいた。

・弁当を食べた後のゴミは椅子の下に捨てる事になっていた(それがマナーが良い行為と考えられていた)。

・網棚(座席の上の方にある棚)に新聞や雑誌を捨てる事は良くあった。

などの話を伺う事が出来ました。


そして、それらの話から感じたのは、

「今の電車利用のマナーが当たり前ではない(時代と共に、電車マナーも変わる)」

という事でした。


結局、それぞれの時代で、

「電車利用時には、これくらいの事は我慢すべき」

という共通認識が多くの人の中にあり、その基準の範囲内での制限については、「電車のマナー」として守られてきたのでしょう。


ですから、今回のゴミ問題についても、

「どこで買ったものであっても、ゴミは家などに持ち帰る」

といった事が社会で受け入れられるのであれば、問題はないのでしょう。

逆に、今の社会において、この前提が受け入れられないのであれば、鉄道会社のゴミ箱撤去を素直に受け入れられない人は多いのではないかと思われます。 

そして、その場合、 残念ながら、現状よりもマナーが悪化する利用者が生まれる可能性もあるように思います。

※残念ですが、実際にマナーが悪化しているというデータが発表されました。自販機横に置かれたリサイクル箱の異物混入率は、鉄道会社独自の回収箱などが撤去された後、9ポイント上昇したそうです(日本自動販売協会による新宿と池袋での調査結果)。(2023/1/26追記)


皆さまは、どのようにお感じでしょうか。

今の社会において、「ゴミは家まで持ち帰る」という前提は、受け入れられるのでしょうか。

個人的には、鉄道会社のゴミ箱撤去については、もう少し、慎重に進めた方が良かったのではないか、という印象を持っています。

これは、日本人というよりも、海外の方から、「日本はゴミ箱が少ない」という意見を聞く機会が多く、「もっと、公共の場のゴミ箱を増やした方が良いのではないか」という意見を以前から持っていたからかもしれませんが。

なお、鉄道会社がゴミ箱を撤去する事になった理由についての正確な情報はありませんが、もし、費用面が最大の理由だったのであれば、「国や地方自治体が補助を出したりして対応する」といった対策があり得たはずですし、駅構内のセキュリティが理由だったのであれば、「駅周辺にゴミ箱を地方自治体等が設置した上で、駅構内のゴミ箱を廃止する」などの段階的な対策が可能であったように思います。

※東京都交通局(都営地下鉄、日暮里・舎人ライナー)および小田急電鉄のゴミ箱撤去に関する方針を加筆。(2022/4/25)

※日本自動販売協会による自販機横に置かれたリサイクル箱の異物混入率に関する調査結果を追記。(2023/1/26追記)