ようやく落ち着いてきたようなので、大塚家具の騒動を取り上げてみようと思います。この騒動については、当時、日本中の中小企業の経営者が、日々、話題にしていたように思います。
この為、今回は「なぜ、大塚家具の騒動について、日本の経営者が、そこまで強い関心を持ったのか」という点について考えてみたいと思います。
少しだけ難しい話にはなりますが、経営に関心のある方に読んで頂ければ幸いです。
大塚家具の騒動の概略
ご存じの方も多いとは思いますが、この騒動は、
「大塚家具という会社の経営権を争って、子供と親が争い、最終的に子供が勝って社長の座を手に入れ、親を会社から追い出した」
という話だと理解されています。
もう少し具体的に言うと、大塚家具の社長になる権利をかけて、父親である勝久氏(大塚家具創業者で、当時、大塚家具の社長)と、娘の久美子氏(大塚家具の取締役)が株主総会で多くの投票を得ようと争った事案です。
この騒動は、2015年1月頃から報道され、周知の事実となりました。
そして、3月の株主総会で、娘の久美子氏が勝ち、大塚家具の社長(代表取締役)に就任。負けた父親の勝久氏は大塚家具を辞め、ご自身の会社を立ち上げられました。
考える上で押さえておくべき点
この騒動は、「株主総会で社長の座を争う」という点でも注目されましたが、それ以上に注目されたポイントは「親子間の対立であった」という点ではないでしょうか。
それを踏まえ、この騒動より少し前の状態を整理しておきましょう。
・まず、勝久氏は、大塚家具の創業者であり、長らく、代表取締役(社長)でした
・そして、この騒動以前にも、久美子氏は大塚家具の社長になっています(その後、一旦、社長ではなくなります)
これらの事からは、久美子氏が、過去、父親から一定の評価を受けていた事が推測されます。
次期社長の任命権は父親が持っていたと考えられますし、全く評価出来ない娘を取締役にはしないでしょう。
更に、こうした事実からは、過去の一時期においては「両者の間は、うまくいっていたのではないか」とも推測されます。
しかし、その後、この親子は会社の方向性をめぐって対立し、どちらか対立で負けた方が会社を去らないといけない所までいってしまった。
そして、その中で、外部の人たちを大規模に巻き込んでしまった。
騒動の構図
こうした推測を踏まえ、この大塚家具の騒動の構図をシンプルにまとめると、
・親と子が一つの会社の中にいて、親は社長
・子の事を、親は評価しており、それなりに関係はうまくいっている(いた)
・しかし、ある時、子が親の言う事に逆らって、会社を違う方向に持って行こうとした
・子の言う事を聞かないと、親は会社を去らないといけなくなりそうだ
となります。
大塚家具の騒動が他人事ではなかった理由
もうお解りでしょうが、こうして考えると、この大塚家具の騒動は、多くの日本の中小企業において「人ごとではなかった」わけです。
日本の中小企業の多くは同族経営ですし、そうでない会社においても、この大塚家具の騒動を、
「若手の次期経営者候補 vs 年長者の現経営者」
と考えれば、殆どの会社にとっては、人ごととは思えなかったことでしょう。
実際、同じような対立は、他の企業においても見受けられます。
大塚家具の親子対決の独自性
しかし、今回の騒動は、他の会社の問題とは大きく異なる点がありました。
それは、大塚家具が
「れっきとした上場企業であった」
という事です。
そして、株主には「冷静に自分の利害を考える人たちがいた」という事です。
結果、今回の親子間の争いは、「双方の主張が、外部から評価される」ことになります。
当時の報道によれば、久美子氏は「気楽に入れる店作りを目指したい」という考えを持っており、「勝久氏とは考え方が合わなかった」と言われています。
どちらの方向性が「より大塚家具の成長に繋がったのか」という事については、ここでは取り上げません。
ここで重要視したいのは、少なくとも、久美子氏のプランは、「外部の株主が納得する水準のレベルではあった」という事だけです。
「大口の外部株主が久美子氏を推した」と言われている事から、少なくとも、外部株主が満足するレベルの提案を久美子氏が出来た事は間違いないと思われます。
もちろん、どの程度の長期的な視点で、外部の株主が判断したののかは解りません。しかし、短期的な株主還元(配当金提案)については、勝久氏も久美子氏に対抗していますから、少なくとも、ある程度は会社の成長性への貢献を考慮して、外部株主は判断したとは思われます。
なお、もしかすると、今回の騒動においては、会社の方針に関する不一致以外に、両者の間に何らかの諍いがあり、どちらかが会社を去らないといけない状況があったのかもしれません。
しかし、少なくとも、表面的には、会社の経営の方針をめぐって対立していた事になっていますし、外部の株主も巻き込んで対立した以上、そうした内部事情はここでは無視したいと思います。
注目された理由のまとめ
繰り返しますが、経営を巡っての親子間のトラブルは珍しくありません。
しかし、そうした争いの結果が、
「外部の株主によって評価される」
という点において、今回の騒動は珍しい事例であったと言えます。
そして、特に、今回のケースでは、
「親が子に負ける」
という結末になりました。
現在、会社を率いている「親」からすると、人ごととは思えなかったことでしょう。
この騒動を、多くの方々は、単純に「興味深い争い」としてご覧になっていたと思います。
しかし、こうした視点を持って、この大塚家具の騒動を見て頂くと、世の中の経営者達が「なぜ、あんなにも、あの騒動を注目していたのか」という事について、腑に落ちて頂けるのではないかと思います。
なお、この話題から学べる事は多いように思いますので、この騒動に関しては、もう少し続けます。