ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

日産問題の本質、買われた会社に独立する権利はあるのか

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日産の問題ですが、本質的な議論があまり活発化していない気がするので、今日は、その辺りの所を少し。

 

日産の問題で目が向けられていないポイント

ゴーン氏の保釈の後、日産に関する話題は、「ルノー社との関係の見直し」に移ってきていると思います。

この件については、様々な視点から議論が行われているようですが、一点、根本的な議論が必要なはずなのに、あまり目が向けられていない点があるように思います。

それは、

子会社は、親会社に従うしかないのか?

というポイントです。

飲みの席で議論しているような言い方に変えると、

「親会社がどんなにヒドくても、子会社は縁切り出来ないのか?」

という議題になるでしょうか。

この方が、ピンと来る方が多いかもしれませんね。


フランスの特殊な法律など様々なポイントはありますが、日産のルノー社との関係の基本は、

「日産は、ルノー社の傘下である。だから、ルノー社の言うことは聞くべきである。」

という概念です。

 

ですから、今回の問題は、結局のところ、

「日産は、ルノー社の子会社なんだから、ルノー社の言うことを聞くべきだ」

という意見と、

「ルノー社より日産の方が大きい会社なんだから、ルノー社の言うことを聞く必要なんかない。」

「ルノー社の言う事を聞いていたら、日産が悪くなってしまう。」

といった意見のぶつかり合いではないでしょうか。

 

子会社は親会社に無条件で従わないといけないのか

であれば、その背後にある大きなポイントは一つです。

子会社に、親会社から独立する権利はあるのか

という事です。

これも、飲みの席で議論しているような言い方に変えると、

「子会社には、親会社とケンカする自由はあるのか?」

となるでしょうか。

 

実は、この問題は、経営の実務の世界でも、あまり議論されて来なかった点だと思います。

なぜならば、「会社は株主のものである」という大前提があり、「子会社の株主は親会社である」という事実がある以上、「子会社は親会社のものである」からです。

すなわち、

「子会社は親会社のものなのだから、子会社は親会社に逆らう権利はない」

という事が大前提となります。

 

しかし、この大前提、場合によっては、少し疑っても良いのかもしれません。

例を出してみますので、皆さまも少し考えてみませんか?

 

ある子会社があり、これまで、親会社とうまくやってきたとしましょう。

しかし、ある時、親会社の経営陣が代わり、子会社の商売を邪魔するような事ばかりするようになったとします。

この場合、子会社は親会社に対して、文句を言う権利はないのでしょうか?

 

もっと酷いケースも想定してみましょう。

子会社の意思に反して、親会社が子会社を潰そうとした場合、子会社には、それに反対する権利はないのでしょうか?

 

皆さまは、どう思われますか?

 

実は、難しい問題なのです。

もちろん、今の法制度上でも、親会社と子会社が話し合って(または、訴訟などをして)、何らかの解を出していく事は出来ます。

また、その話し合いが決裂したとしても、「親会社に嫌気がさした子会社の従業員が独立して、新しい会社を作ってしまう」といった解決策はあります。

実際、そうした事例に携わった事もあります。

しかし、「子会社の社員が新しい会社を作る」といっても、今と同じような商売が出来る会社を新しく立ち上げられるかどうかは難しいところです。

こうした事に詳しくない方でも、「元の勤務先に喧嘩を売るような商売を始める事には、様々な問題がある」という事は、容易に想像して頂けると思います。

また、そもそも、許認可の関係などで、それが事実上出来ないケースすらあります。

 

また、こうした話を子会社の視点で書くと、「親会社が酷い」「子会社に権利を与えるべきだ」といった一方的な議論になりがちですが、現実には、親会社の方にも、それなりの理由がある場合も多いのです。

ですから、親会社の側の権利の事も十分に考えなければいけません。

 

一見、似たような状態でも法律的に保護されるケースもある

しかし、こうした状況と比較して頂きたい状況があります。

 

それは、

「今までうまくいっていた会社なのに、経営者のスタンスが大幅に変わり、従業員が困っている」

といった状況です。

法律的には全く別の状況ですが、似ていると思いませんか?

そして、この場合には、従業員には会社を辞める権利があるほか、従業員同士で団体を作って、「会社と対決する」という選択肢が、法律上、認められています。

すなわち、労働者側にも、経営者とケンカする権利が認められているのです。

 

これと比べて、冒頭から検討している、親会社と子会社の間では、こうしケンカが出来る仕組みは整備されていない、と言って良い状況です。 

そして、今回の日産のケースのように、「親会社と子会社の仲が悪くなる」といった事態が発生する事は、今後も予想されます。

 

こうした事を踏まえると、

「子会社が親会社と対立する権利は、尊重すべきなのか」

「子会社と親会社が対立した場合、どうやって解決していくのか」

といった事は、今から考えておいた方が良いのではないか、と思うのです。

そして、今回の日産とルノー社との関係の問題も、その検討の中で議論していった方が良いように思うのです。

 

子会社としての日産の権利は人ごとでは無いかもしれません

ここまで読んで、自分には関係ない話だと思われましたか?

そんな事はないかもしれませんよ?

 

今後も、企業が買われる事は多いでしょう。

 

それは、日産のように、企業救済を目的としたものかもしれません。

そうでなくても、企業を成長させる為に事業が売買される事は日常的に行われています。

中小企業の場合には、現経営者の高齢化に伴う対策としても実行されるでしょう。

もしかすると、これを読んでいる貴方の会社も、どこかの会社の子会社になる可能性は否定出来ないのでは?

そして、貴方が勤めている会社が買われた後、その親会社が酷い会社だと解った場合、または、最初は良くても、後から酷い状況になった場合、貴方は、「仕方ないな」で終わらせられますか?

もし、違和感を感じるのであれば、この問題は人ごとではない、と考えて頂いた方が良いかもしれません。