ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

経営の視点で選ぶと、2020年のトップ注目ニュースはあのニュース!

三菱ケミカルホールディングスの社長選び


2020年を振り返ると、様々なニュースがありました。

一般的なニュースや流行語はマスコミに任せるとして、

『日本企業の経営を変える(かもしれない)インパクト』という視点で、2020年のニュースを振り返ってみると、何がトップニュースになるのだろうか?

という事を、2020年末に様々な方と振り返ってみた結果をご紹介しようと思います。

※一時的なインパクトではなく、将来にわたって影響があるものを対象としています。


外部の多くの経営者から挙がったのは、皆さまも納得だと思いますが、

「新型コロナウイルスの流行に伴う、様々な経営環境の変化」

に関するものでした。

具体的には、

「テレワークの普及」

「副業の普及」

「地方への移住や拠点移動」

「ペーパーレス化」

などです。

また、少しマニアックな所では、

「(特に米司法省の訴訟に伴って)GAFAの存在感の低下が始まるのではないか」

といったポイントを重視されている方もいらっしゃいました。

もちろん、「自動運転」「水素(の燃料としての普及)」「5G」といったキーワードを挙げる方もいらっしゃいました。


ですが、実は、私は、これらとは違うニュースを挙げていました。

私が考えるトップニュースは、

株式会社三菱ケミカルホールディングスの次期社長にジョンマーク・ギルソン氏が就任する事が決定

というニュースです。


一般の方には???と思われるニュースかもしれません。

しかし、このニュース(事実)こそ、「日本企業の経営についての常識を大きく変える可能性があるニュースである」と考えています。


では、なぜ、このニュースがそんなに重要なのか。


ご存じない方の為に、まず、このニュースの背景を簡単にご紹介しましょう。

三菱ケミカルホールディングスという会社は、三菱ケミカル株式会社(国内化学大手で、三菱化学株式会社、三菱樹脂株式会社、三菱レイヨン株式会社が合併して出来た会社)や田辺三菱製薬株式会社(国内製薬大手)などの会社の親会社です。

三菱グループの中核企業の一つでもあります。

別に、業績面で問題がある訳でもありません(最近の業績は良くありませんでしたが、理由ははっきりしています)。

この会社が、2020年、次期トップを選びました。

普通、現在の役員の誰かがトップになるんだろうな、と思いますよね。

せいぜい、

「社内の○番手が、○人抜きでトップに就任!」

であるとか、

「○歳の社長が登場!(若返り)」

といった所が注目ポイントになって騒がれるくらいのものでしょう。

しかし、この会社、凄い事をやってくれたのです。

なんと、

『社外』の『外国人』をトップに選んだ

のです。

三菱の中核企業の一社で、別に日産のように、外部の企業に助けを求めないと不味い状態であった訳ではない会社が、ですよ。

具体的には、前述のジョンマーク・ギルソン(Jean-Marc Gilson)さんという、ベルギー出身の人を次期社長(正確には、代表執行役社長)に選びました。

この方は、これまで三菱ケミカルとは関係ない方です(日本や日本企業との縁はあります)。

そして、発表されている情報によれば、この次期トップの選定は、

世界中から一番いい経営者を探す

という作業をした結果との事です。

言葉にすると当たり前の事なのですが、それが出来る会社が、日本に何社あることか。

そして、彼には、

「時価総額を大幅に増やす(端的に言ってしまえば、株価を上げる)」

という事を期待しているとの事です。

公式発表資料でも、

「企業価値、特に株主・投資家から見た企業価値を向上できること」

を次期トップの選定基準として重視した旨が明記されています。

これも当たり前の事ではあるのですが、本当にそれを重視して、次期トップを選ぶ会社が何社あることか。

ちなみに、この選定基準には、他に、

「強力なリーダーシップでポートフォリオ・トランスフォーメーションを断行できること」

というポイントも重視していたと明記されています。

敢えて片仮名で誤魔化しているように思えますが、要するに「事業の見直しを断行してくれる事」という事ですね。


さて、想像してみて下さい。

もし、このギルソンさんが期待に応えて、素晴らしい結果を出したとしましょう。

今後、日本企業(特に大手上場企業)が次のトップを選ぶ時には、この三菱ケミカルホールディングスの事例を無視出来なくなるのではないかと思うのです。

これまでは、「日本人じゃないと、日本企業はうまく運営できないのではないか」といった懸念を堂々と挙げて、「日本人から次のトップを選ぶ」という事をやってきた会社は多いのです。

しかし、今後は、「あの三菱でも、海外から人を呼んできて、成功したんだぞ!」という声が挙がる事が予想されます。

少なくとも、外部の利害関係者(株主など)からのチェックが強く働く会社であれば、「次期トップを選ぶ時には、海外から人を呼んで来る事も考えないといけない」というのが常識になっていく可能性は高いのではないかと予想しているのです。

もちろん、これまでも、海外からトップを呼ぶ事はありました。

しかし、繰り返しになりますが、今回は「あの三菱グループの中核企業の一社」です。これまでとはインパクトが違います。

そして、海外からトップを選ぶ事が一般的になれば、もちろん、企業の中も大きく変わっていく事でしょう。

単なるトップ選考だけでは終わらないインパクトまで予想されます。


ちなみに、逆の場合の事も考えておかなければなりません。

もし、ギルソンさんが失敗した場合はどうなるでしょうか。

失敗の理由にもよるでしょうが、

「やはり海外からトップを呼んできても、日本企業ではうまくいかない」

という全く逆の影響が、日本企業の今後のトップ選考において生まれる可能性があります。

これはこれで、日本企業の経営に与える影響は小さくないでしょう。


ギルソンさんが結果を出すのか、それとも、逆の結果になるのか。

「三菱ケミカルホールディングスの今後」と「ギルソンさんの経営手腕」に注目していきたいと思っています。

なお、ギルソンさん自身、自分に寄せられる大きな期待を理解しているはずです。

この為、かなり早い段階で、結果を出そうとする事でしょう。

ですから、結果は、かなり早い段階で見えてくると思います。

よろしければ、皆さまも一緒に注目してみて下さい。

ギルソンさんの三菱ケミカルホールディングスの社長就任は2021年4月1日の予定です。