ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

水虫薬への成分混入で死者まで出した小林化工の意外な「親会社」

小林化工 イトラコナゾール錠50「MEEK」

昨年12月に、薬品業界を衝撃的なニュースが駆け巡りました。

それは、

水虫を治療する為の内服薬(飲み薬)に、睡眠薬の成分が混入してしまっていた。

というものでした。

この事件を起こしたのが、「小林化工株式会社」という会社です。

この会社名までは、報道で目にされた方も多い事でしょう。

では、「この製品の販売会社(卸に販売していた会社)」や「この製造会社の親会社」をすぐに回答できる方はいらっしゃいますでしょうか?

恐らく、業界の関係者以外、いらっしゃらないのではないでしょうか。

それもそのはずで、この件についての報道では、製造会社ばかりが取り上げられ、より一般に名前が知られているであろう販売会社や親会社を取り上げていた報道は少なかったのです。

「処方箋を貰い、調剤薬局で買う」という特殊な商売形態ゆえなのかもしれませんが、不思議に思う所でした。

そして、この事例を取り上げる事は、「皆さまの今後の『薬選び』にも役立つかもしれない」と考え、このブログで取り上げる事にしました。


改めて、問題を振り返っておきます。

事件は、「小林化工が『イトラコナゾール錠』という水虫の治療薬を製造する過程で、『リルマザホン塩酸塩水和物』という睡眠導入剤(睡眠薬)の成分を『間違って』入れてしまった」という、とんでもないものでした。

過去にも、原料管理などの問題から、「本来、含まれているべきではない成分が医薬品に含まれてしまっていた」といった事件は発生しています。

しかし、今回の事件は、それらの事件とは危険度が大きく異なりました。

混入してしまったのは、睡眠薬の成分です。

そして、混入してしまった量も微量ではなく、「通常、睡眠薬として服用する量を超えて混入している」というものでした。

当然、服用した患者は、意識を失ってしまう危険性があります。

運転中であれば、運転中に意識を失ってしまう。危険な作業中でも、意識を失ってしまう。そういう事態が予想されました。

そして、実際に、そのような事故が発生してしまったのです。

因果関係が立証されるのかどうかについては難しい点もあるようですので、ここでは言及を避けますが、報道などによれば、200件を超える健康被害が確認され、死者も出ているとの事です(交通事故なども実際に発生してしまった模様です)。


さて、本題とも言える部分に入りましょう。

問題となった薬の正式名称は、『イトラコナゾール錠50「MEEK」』といいます。

この問題の薬を製造していたのは、前述の通り、「小林化工株式会社(本社:福井県あわら市)」。

そして、この商品を販売していたのは、「Meiji Seika ファルマ」という会社です。

英語になっているので、少し解りづらいかもしれませんが、「Meiji Seika ファルマ」の源流は、明治製菓株式会社であり、明治グループ内の事業再編で現社名になっています。

すなわち、「Meiji Seika ファルマ」は、「明治」のグループ会社なのです(あまり有名ではないかもしれませんが、明治は薬の商売も行っているのです)。

そもそも、問題の製品名(イトラコナゾール錠50「MEEK」)についている「MEEK」とは、「Meiji Endorsable and Essential generics made by Kobayashi」の略であり、明治が関係して小林化工が製造している薬にのみ付いているものです。

ですから、調剤薬局で、「(あの有名な)明治の薬ですから、安心して飲んで下さいね」と言われて、この薬を選んだ患者もいるかもしれないのです。

※この薬は「ジェネリック医薬品」ですので、他のメーカーでも同成分の薬を製造しています。


あまり有名ではないメーカーの商品を買う時に、「有名な企業が関係しているのであれば安心だと考えて購入する」という消費者の行動は珍しいものではありません。

それは、「有名企業なら、自分のブランドが傷ついては困るだろうから、しっかりとした商品チェックをしているだろう」という推測が前提となっています。

そして、もちろん、その考え方は間違いではありません。

医薬品については様々な考え方があるでしょうが、実際に、このような問題が発生してしまった事実を踏まえると、「関与している会社すべてが、製造会社の品質管理に対して、より厳しい目を向ける」という事は必要であると思います。

そして、「問題が起きると自社の名前も報道されるかもしれない」と自覚する事は、自社の取引先の品質管理を見直す良いきっかけにもなるでしょう。

そして、それは、第二の同様の事件が起きるのを防ぐ事に繋がったと思うのです。

それだけに、今回の報道で、製造会社の名前ばかりが報道され、販売会社の名前が報道されなかった事については、残念に思っています。

ちなみに、過去に百貨店が偽物のアクセサリーを販売した時には、そのアクセサリーの販売元の会社ではなく百貨店の名前が大々的に報道されていました。


同じ事は、親会社に対しても言えます。

子会社が問題を起こした場合、グループ全体の信用が失墜すると解っているからこそ、親会社は「子会社の製品であっても、高い品質を維持しなければならない」と考えます。

そして、今回の小林化工の親会社は、あの「オリックス」でした(2020年にオリックスの傘下入り)。

どのような意図でオリックスが小林化工を子会社にしたのかは別として、オリックスの方が小林化工よりも有名な企業である事は間違いないでしょう。

その点から考えると、やはり、オリックスに対しても、より厳しい品質管理を小林化工に指導しておいて欲しかった、と思います。


最後に、誤解がないよう、この件についての各社の事件後の対応(主に情報開示)について触れておきたいと思います。

まず、小林化工ですが、問題を起こした事は責められて当然ですが、その後のホームページでの情報開示は、賞賛されるレベルであったと思います。

また、Meiji Seika ファルマも、自社で扱う商品なのですから、このような事件が起こらないよう、もっと小林化工の体制を管理しておいて頂きたかったとは思いますが、ホームページでの情報開示は、しっかりとしていました。

このあたりの情報開示が確認できた事は、酷い事件で背筋が凍るような思いをする中で、少しホッと出来る所でした。

もちろん、各調剤薬局でも、しっかりと対応(自店舗で問題の薬を出した患者がいないかどうかの確認や回収など)をしてくれていたようです。

この事件が教訓となり、各社の品質管理が強化され、二度と、このような事件が起きない事を願って、この記事を終わりにしたいと思います。