先日、
「ゆうちょ銀行が、硬貨での取引に手数料を徴収する」
という方針を発表しました。
窓口とATMの両方の取引が対象で、2022年1月17日以降、硬貨が関係する取引をすると、通常の手数料に加えて、「硬貨を扱う為の手数料」が必要になります。
特に、ATMでの取引の場合には、1枚でも硬貨が含まれていると料金が発生してしまう事になりました。
この硬貨の手数料、単に利用者の負担になるだけではなく、物価への影響があるかもしれません。
そして、最終的には、お店(小売店)の廃業にまで影響が出るかもしれません。
さて、そのような影響について触れる前に、 ゆうちょ銀行が発表した「硬貨を扱う為の手数料」の料金体系について確認しておきましょう。
まず、ゆうちょ銀行のATMで硬貨を伴う取引を行うと、「ATM硬貨預払料金」という名称の手数料が徴収されるようになります。
具体的には、ゆうちょ銀行のATMで硬貨を含んだ「払戻し(引出)」を行うと、
・1枚以上 110円
の手数料がかかるようになります。
ゆうちょ銀行のATMで硬貨を伴う「預け入れ」を行った場合には、
・1枚~25枚 110円
・26枚~50枚 220円
・51枚~100枚 330円
の手数料がかかるようになります。
※枚数は複数取引の場合でも1回ごとにカウント(合算での料金計算はされない)。
※これに伴い、ATM硬貨預払料金が支払えない場合(残高不足になってしまう場合)には預け入れも出来ない、という事になりました。
また、窓口での取引の場合も、一定枚数以上の硬貨を含んだ預け入れや払込み(振込)を行うと、「硬貨取扱料金」という名称の手数料が徴収されるようになります。
手数料の額は以下の通り。
・51枚~100枚 550円
・101枚~500枚 825円
・501枚~1000枚 1100円
※50枚までは無料。また、1000枚を超えた場合は500枚毎に550円加算。
※上記全てについて、細かい例外規定などは省略。
金融機関にとって現金(特に硬貨)を扱うコストは馬鹿にならないので、これまでも、「両替を有料にする」といった変更は行われてきました。
しかし、今回は、「普通の預金者が、ATMで現金を預けるだけでも手数料がかかるようになる」という変更です。
ゆうちょ銀行も、なかなか思い切った手数料体系を導入したものだな、と思います。
導入当初は、利用者から、かなりの混乱(とクレーム)が発生する事が予想されます。
しかし、この料金体系の導入で、本当に注目すべきなのは、「現金を扱う事業者(小売店など)への影響」だと思われます。
もちろん、ゆうちょ銀行だけが硬貨に対して手数料を導入するのであれば、「事業者が、他の銀行を利用すれば良い」という話で終わる可能性はあるのですが、小規模な商店の場合、ゆうちょ銀行をメインで活用している所は少なくありません。
また、今後、他の銀行も追従するような事があると、
「自店舗が硬貨を扱うコストが跳ね上がる」
という影響が発生します。
皆さまもご存じかもしれませんが、一般消費者向けの商売をしているお店にとって、
・日中にお釣りが切れないように、釣り銭用の硬貨を営業開始前に用意する(営業中も釣り銭の確保に走り回ることもあります)
・定期的に、レジにある現金を金融機関に預け入れする
といった作業は、かなり一般的なものです。
そして、特にお釣りの準備は、かなり大変だと感じているお店は多くあります(どんなお札で支払われても大丈夫なように釣り銭を用意するのは、かなり大変なのです)。
お店の経営に詳しくない方の場合、「では、キャッシュレス決済に切り替えていけば良いだけなのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、キャッシュレス決済にすると、売上の数%をキャッシュレス決済の事業者に手数料として支払わなければなりません(3~4%程度の手数料が一般的)。
そして、この数%の手数料は、小売店にとっては、かなりの重荷である事が多いのです。
この為、現金を扱う手間がかかっても、これまで、小売店では現金決済を歓迎する傾向がありました。
※キャッシュレス決済の手数料については、これまで決算手数料が無料であったPayPayも決済手数料を有料化(1.6%~1.9%)する事を発表しました。
しかし、です。
もうお解りだと思いますが、「金融機関に硬貨を取り扱って貰うと手数料がかかる」という事になると、「現金を歓迎する」という傾向は急速になくなるかもしれません。
そして、今後は、
「現金(硬貨)では支払わないでくれ(現金支払禁止)」
というお店が増えるかもしれません。
ただし、キャッシュレス取引でも手数料がかかるのは、先ほども書いた通りです。
そうなると、やむなく、
「値段を上げる」
という行動に出るお店も出てくるかもしれません。
結果、
・キャッシュレス取引の普及
・(小売店の店頭での)価格の値上げ
が進む事になるのかもしれません。
そして、それだけで済めば、まだ良いのですが、残念ながら、全てのお客様にキャッシュレス取引をお願い出来る訳ではありませんし、また、価格を上げた場合、同じだけの売上が維持できるとも限りません。
そうなると、最終的には、
「単純に、そのお店の業績が悪化する」
という結末になってしまうかもしれません。
そして、残念ながら、潰れてしまうお店も出てきてしまうかもしれません。
「硬貨取引の手数料(有料化)」は、たかが手数料、されど手数料なのです。
この手数料の導入が、お店の経営悪化や廃業に繋がらない事を願いながら、今後の動きを見守りたいと思っています。