店頭でマスクが簡単に買えなくなって随分になります。
必要にも関わらず購入出来ない人の悩みも聞こえてきます。
メディアでは、マスクを配給制にして成功した国の事例なども紹介され、
「今の日本のやり方で大丈夫か?」
といった疑問の声も聞こえてきています。
当社では、経営相談を受けた場合の解決策を考える際などに、様々なディスカッションを行っていますが、今回は、社内トレーニングも兼ねて、
「もし、日本がマスクを配給制にするのであれば、どういった導入方法がベストか」
という議論をしてみました。
そして、その結果、
「選挙管理委員会のノウハウを活用するのが一番良いのではないか」
というアイデアが出ましたので、一つの参考として、ご紹介してみます。
※国が「個人の入手出来る量」をコントロールする仕組みを広義の配給制として捉え、「配給制」と表現しています。
マスクに配給制を導入するメリットとは
まず、配給制を導入するメリットについて。
それは、「全ての人が、自分のマスクを手に入れる事が出来るようになる」という事でしょう。
もちろん、「手に入る量」については、供給量の制限がありますので、各自が望む量が手に入るとは限りません。
しかし、
・時間に余裕のある人が店に並び、買い占めてしまう(結果、本当に必要な人でも、忙しい人が買えない)
・マスクを買う為に店頭に並ぶ事で、感染が拡大してしまう
といった、現状起きている事態は避けられます。
結果として、「高値での転売」も防げる可能性はありますが、これは、他の方法でも規制ができますし、配給制であっても供給量が十分にない場合には、転売へのニーズ自体は消えないので、ここではメリットから外して考えたいと思います。
マスクに配給制を導入するデメリットとは
次に、配給制導入のデメリットは何か。
色々と思いつきますが、導入方法さえうまく選べば、実は、
「導入コスト」
くらいではないかと思われます。
「需要と供給によって成り立っている市場経済メカニズムを否定する」という点も大きいのですが、そもそも、日本においては、「保険診療で出される医薬品の価格」は規制されています(保険点数というものが定められており、それで価格が決まっている)。
そして、今の状況におけるマスクの重要性を鑑み、マスクが「医薬品のようなものである」と考えれば、マスクが自由に買えなくなる状況も受け入れられるのではないでしょうか。
すなわち、当面の間、「マスクは、(他の医薬品と同じく)医者の処方せんを貰わないと買えなくなった」と考えれば良いだけではないでしょうか。
こう考えれば、マスクの購買が制限されたり、購買の手間が増えるのにも違和感がなくなるはずです。
マスクを配給制にする為に必要な3つの仕組み
しかし、現実問題として、供給が限られているものを配給にする上では、3つの仕組みが必要になります。
①供給者から調達する仕組み
②需要先へ配布する仕組み
③購入する(または受け取る)権利を管理する仕組み
ただし、①②は、実は不要かもしれません。
もし、受け取る権利を持つ先にマスクが届かないような事態が想定されるのであれば、政府が一括してマスクを調達し、市町村毎に配布するような事をしないといけないかもしれません。
しかし、現在、物流は正常に動いています。
そして、全国津々浦々の店舗において、一定量は商品が店頭に並んでいるという話もあります(真偽のほどは不明)。
もし、これらが本当で、一部の人による買い占めを防ぎ、全員が同じ量しか買えないようにさえすれば問題が解決するのであれば、①②の準備は不要です。
その場合、新規に必要なのは、③だけであり、「購入する権利を管理する仕組み」を作り、店頭で「各自が持っている権利の分しか購入できないようにする」だけで良い事になります。
必要となるマスクを購入する権利の管理システム
さて、前置きが長くなりました。
今日の本題は、ここからです。
では、仮に、そうした仕組みが必要になった場合、
「マスク購入の権利を管理する仕組み」
を、どう構築すべきでしょうか。
台湾では、各国民に割り当てたIDカードを使って、1週間あたりで購入出来る枚数(と購入できる日も)を電子的に管理しているそうです。
これと同じような仕組みを作れば良いのは明白です。
ですが、日本においては、色々と問題があります。
まず、
・そもそも、便利に使える国民共通のIDカードがない
という問題があります。
実際には、マイナンバーや住民票コードというID自体はあるのですが、それを証明するカードを国民全員が持っていません。
今からカードを全員に作らせようとすると、その過程で役所に人が押し寄せ、感染拡大が起きてしまうかもしれません。
また、マイナンバーの利用拡大に関しては、強い反発を持っている層がいる事も解っています。
今からマイナンバーカードの所有を強制したり、この仕組みを使う対象を広げる事で、この非常時に国を二分するような争いを引き起こしたくもありません。
また、仮にIDカードが普及したとしても、それを使って管理する仕組みを作り上げるのは一苦労だろうと予想されます。
かといって、住民の情報を持つ地方自治体に、
「住民一人一人のマスク購入の権利を管理する仕組みを作って」
と今からお願いしても、地方自治体の現場が混乱するのは目に見えています。
では、国が全てやってしまえば良いのか?と言うと、それも、地方ごとの事情が考慮出来ずに色々と問題が出そうです。
郵便局が持っている世帯情報を使うという手も、マスクを一度送るくらいであれば良いかもしれませんが、配給の管理に使うには杜撰(ずさん)すぎるように思います。
さて困ってしまいました。
権利管理がしっかり出来る事は当然として、セキュリティの問題をクリアし、新たな感染者を出さず、世の中から反発も受けず、IT弱者からも批判されないような仕組み。
そして、何より、それを「簡単に」、そして、「迅速に」作り上げる方法は?
マスク配給に選挙管理委員会を活用するというアイデア
なかなか難しい課題なようにも思えますが、一つ、思いつくものがありました。
それが、冒頭でも紹介した
「選挙管理委員会の仕組みを活用する」
というものです。
実は、対象が有権者に限定とはなってしまいますが、
・全国民に
・権利を記載した紙を一斉に配布し、
・その権利を行使したかどうかを管理する
という仕組みが、そこにあるはずなのです。
それも、数年に一度以上の頻度で実際に使われ、現地テスト済のものが。
選挙では、有権者全員に通知を出し、投票場では権利行使を受け付けます。そして、二重投票出来ない仕組みも確立しています(いるはずです)。
おまけに、住民票通りの場所にいない人への権利配慮なども出来ています(不在者投票制度)。
これは、マスクを購入する権利の管理にも使えるのではないでしょうか。
具体的な仕組みはマスクを手に入れる方法をどう定義するかによって変わりますが、郵送で通知を受け取り、投票場で投票する代わりに「マスクを受け取る」、または、「マスクを買う権利が記載されたクーポンを受け取る」という流れを想像して頂ければ、実現可能な事は理解して頂けると思います。
※もっと効率的にする事も可能でしょう。
もちろん、この仕組みがコスト面などでベストとは到底思いません。
しかし、こういった非常時には、「トラブルが起きずに」構築・運用出来る事が大事です。
その観点から言えば、「押さえておくべきポイント」がクリア出来ており、実際に運用経験がある仕組みというのは、非常に有り難いものです。
関係者の方には、一つのたたき台として、頭の片隅にでも入れておいて頂ければ幸いです。
※選挙管理委員会の仕組みを他目的に流用する事が法令上問題ないかどうかのチェックは行っておりません。あくまでディスカッションレベルでの提案ですので、ご容赦下さい。