マスクにJIS規格(日本産業規格)が制定されました。
近いうちに、JIS規格に適合したマスクが流通するようになる予定です。
しかし、JIS規格の登場前に発売されたマスクを備蓄されている方も多い事でしょう。
私も、「今後は、JIS規格に適合していないマスクは使わない方が良いのか?」といった質問を受ける機会がありました。
調べてみると、確かに「マスクのJIS規格が出来ました」といった内容の報道は多くあるのですが、「今後、マスクの選び方をどう変えれば良いのか?」という視点で解説している情報は、ほとんど見当たりませんでした。
この為、今日は、「新しく制定されたマスクのJIS規格を、どのように考えれば良いのか?」という点について書かせて頂こうと思います。
ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんので、最初に、JIS規格について簡単にご紹介させて頂きます。
JIS規格とは「Japanese Industrial Standards」の略で、「日本産業規格」が正式な名称です。
一言で言ってしまうと、JIS規格とは「日本の国家規格」です。
制定される目的としては、「互換性の確保」「生産の効率化」「公正性の確保」「技術進歩の促進」「安全や健康の保持」などが挙げられています。
そして、この国家規格に、この度、マスクの規格が登場した、という訳です(これまで、感染症や花粉対策の為に使われるマスクの性能に関する規格は存在しませんでした)。
次に、今回登場したマスクのJIS規格の概略をご紹介しましょう。
まず、マスクのJIS規格としては、2つの規格が制定されました。
具体的には、以下の2つです。
・JIS T9001(医療用マスク及び一般用マスクの性能要件及び試験方法)
・JIS T9002(感染対策医療用マスクの性能要件及び試験方法)
制定日付は2021年06月16日。
所管の省庁(主務大臣)は経済産業省と厚生労働省となっています。
そして、2つ目の「JIS T9002」で制定されているのは、主に感染症の最前線で仕事をする医師などが用いるマスクについての規格です(紐を耳にかけるのではなく、紐を頭の後ろにまわして使うような分厚いマスクをイメージして下さい)。
ですから、一般の方が利用されるマスクが関係するのは、1つ目の「JIS T9001」という規格の方になるのですが、この「JIS T9001」の中では、4つのマスクの種類についての規格が定められています。
1.医療用マスク クラスI
2.医療用マスク クラスII
3.医療用マスク クラスIII
4.一般用マスク
この中で、一般の方が関係するのは、主に「一般用マスク」についての規格という事になります。
さて、JIS規格に適合しているマスクとして販売される(規格適合番号を取得した)一般用マスクのパッケージ(外装)には、以下のような内容が記載された表が記される予定です。
試験項目 | 適合判定 | 備考 |
---|---|---|
PFE >= 95% | ○ | 微小粒子捕集効率 |
BFE >= 95% | ○ | バクテリア飛まつ捕集効率 |
VFE >= 95% | ○ | ウイルス飛まつ捕集効率 |
花粉 >= 95% | ○ | 花粉粒子捕集効率 |
安全衛生・通気性 | ○ | 圧力損失、遊離ホルムアルデヒド、特定アゾ色素、蛍光 |
※機能に関する項目については、全ての項目が○であるとは限りません。
※備考は筆者による注記。
「JIS規格に適合したマスク」を特別な性能を持ったマスクと勘違いされている方もいらっしゃるようですが、別に、そのような事ではありません。
あくまで、「JIS規格に適合したマスク」として販売されるマスクとは、「表に書かれている性能に関して、定められた検査を通っている事が明確にされたマスク」という事だとお考え下さい。
ですから、既に出回っているマスクでも、JIS規格に準拠している(試験をすれば、適合している事が確認できる)製品は多くあると考えられます。
実際、既にお手元にあるマスクのパッケージを見て頂きたいのですが、実は、今でも多くのメーカーは、VFEなどの性能をパッケージに載せています。
ですから、その表記と、上記の表を見比べて頂き、今お持ちのマスクの性能が特に劣っていると思われない場合には、別にJIS規格に適合したマスクを買い直す必要はないと考えられます。
もちろん、JIS規格が制定された事により、統一された基準で検査が行われ、かつ、より解りやすく性能が表示される事になる訳ですから、消費者にとっては歓迎すべき事だとは思います。
また、先ほどご紹介したマスクのパッケージに記載される表には、検査結果の実測平均値を併記する事も可能です(例:PFE 98% など)。
※記載するかどうかは、マスクのメーカーが決める事になります。
この為、「JIS規格の基準以上の性能を持っている」という事がパッケージから読み取れるマスクも、今後、増えてくる可能性があります。
もし、そのような商品が増えてきた場合には、JISに適合している製品同士で、性能の比較もし易くなる事でしょう(ただし、そこまで高性能なマスクが必要か本当に必要なのか?は各自で判断する必要があります)。
最後に、関心をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんので、医療用マスクのJIS規格についても少しだけ触れておきましょう。
医療用マスクのJIS規格に適合した製品には、一般用マスクのJIS規格に加えて、
・人工血液バリア性
・可燃性
といった項目の表示が加わります(逆に、花粉についての性能表示は無くなります)。
「医療用マスクのJISに適合している製品の方が、一般用マスクよりも良いものなのでは」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、多くの方は人工血液バリア性などに関する性能を必要とはされない事でしょう。
この為、ほとんどの一般の方は、医療用マスクのJISを気にされる必要はない(購入される必要は無い)と思われます。
多くの基本性能については、JISに適合した一般用マスクの製品パッケージにも記載がありますし、特に、検査結果の実測平均値が併記されている製品から選ぶようにして頂ければ、VFEなどの基本性能については、医療用マスクと同等(または、それ以上)の性能を持った製品を選ぶ事も可能です。
※医療用マスクのJIS規格にクラスIからクラスIIIまでの分類がある事は先に書いた通りですが、クラスIからIIIの差は、PFE・BFE・VFEと人工血液バリア性の基準値による差です。
ぜひ、これらの内容をご理解頂き、盲目的にJIS規格を有り難がるのではなく、利用用途に合った適切なマスク選びをして頂ければ、と思っております。
※このエントリの内容は、日本衛生材料工業連合会の「JIS T9001 適合申請用表示・広告ガイドライン(2021年7月2日制定)」の内容に基づいております。ガイドラインは、今後、変わる可能性があります。また、正確なJIS規格の内容については、日本産業標準調査会のホームページからご確認下さい。筆者および筆者関係者・団体は本エントリの内容を活用された結果について一切の責任を負いません。