先日、学生と話していた所、環境問題が話題となりました。
その際、学生から、
「なぜ、今すぐ世の中の自動車を電気自動車(EV)に置き換えないのか?」
と問いかけられました。
そのような事を全国民に(もしくは世界中の人に)強制する事の怖さ・難しさについても語りたくはなったのですが、それ以上に、一点、気になる事がありました。
そこで、以下のように返してみました。
私「もしかして、今すぐ電気自動車を大量に作って、化石燃料で動いている自動車を全て置き換えたら、二酸化炭素(CO2)の排出量が大幅に削減できると思っていませんか?」
そうすると、予想はしていたのですが、次のような反応がありました。
学生「電気自動車は化石燃料を燃やしません。ですから、二酸化炭素は出さないはずでしょう?」
私「本当にそう思う?」
学生「だからこそ、電気自動車へのシフトを世界中で進めているのですよね?」
この学生の理解度を確かめるべく、会話を続ける事にしました。
私「二酸化炭素は走行中だけに発生する訳ではないよ?」
学生「あ、発電の話ですか?確かに、火力発電で発電された電気で走る電気自動車は、間接的に二酸化炭素を発生させているとも言えますね。それは気になっていました。」
この回答を聞いて、少し安心しました。
さすがに、走行中以外の事について全く考えていない訳ではなかったようです。
私「色々な前提を置かないと電気自動車の二酸化炭素排出量について考えられないのは解ってくれているのですね。良かったです。」
しかし、これで話を終わりにする訳にはいきません。
私「もし、『電気自動車の方が二酸化炭素の排出量が多い』という事があり得るって言ったら、どうする?」
学生「いや、流石に、それは無いでしょう。そんな事があったら、頑張って電気自動車に切り替えようとしている人はどうすれば良いのですか」
ごもっとも。
でも、実は、その可能性は否定出来ないのです。
私「実はね、『電気自動車の方が二酸化炭素排出量が多い場合がある』という試算があるんだよ。もちろん、先ほども出た、発電方法の違いなんかに影響は受けるので、前提次第なのだけれども。」
学生「…(絶句)」
私「だから、単純に電気自動車に置き換えれば二酸化炭素の排出量を削減できるとは限らないのですよ。」
学生「だとすると、前提をしっかりと検討しないといけませんね…」
ちょっと相手が落ち込み気味になっているので気は引けたのですが、もう一点、強調しておかないといけない事があったので、話を続ける事にしました。
私「ちなみに、もし、貴方が提案したような、『現存する自動車を電気自動車に一気に置き換える』なんてことを実現しようとすると、電気自動車の生産を急ピッチで進める必要があるよね?」
学生「はい」
私「そんな事をすると、どうなるか考えてみよう。電気自動車の生産には、様々な理由からエネルギーを使う。しかし、供給できる自然エネルギー量は急には増やせない。だから、電気自動車を短期間に大量生産しようとすると、二酸化炭素排出量の多いエネルギーを活用しないといけなくなる可能性が高い。色々とマイナスが多いと予想されるのだよ。」
学生「そこまで考えていませんでした…」
私「こういう難しい問題を扱う上で、勉強は役に立つはずです。ぜひ、自分が関心を持った分野について深く考える為にも、勉強は頑張って下さい。」
どこまで伝わったかは解りませんが、こんな会話をしつつ、この時の会話は終わりました。
さて、話を少し戻しましょう。
会話の中で出て来た、
「電気自動車の方が二酸化炭素の排出量が多い場合がある」
という試算があるのは本当です。
フォルクスワーゲン社が自社のBEV(バッテリー電気自動車)の二酸化炭素排出量についてのデータを公開しているのですが、その中で、以下のような情報を開示しています。
・ディーゼル仕様のゴルフ(Golf TDI)のライフサイクル全体を通した二酸化炭素排出量は140g/km。
・これに対して、電気自動車のゴルフ(e-Golf)のライフサイクル全体を通した二酸化炭素排出量は119g/km。ただし、これは前提としてEU平均の発電のデータを用いた場合。
・もし、ドイツ国内のデータで計算すると、電気自動車のゴルフ(eゴルフ)のライフサイクル全体を通した二酸化炭素排出量は142g/kmとなる。すなわち、ディーゼル仕様よりも二酸化炭素排出量は増えてしまう。
・アメリカのデータで計算した場合もドイツと結論は同じ。もし、中国のデータで計算すると、更に二酸化炭素排出量は増える試算となっている。
※フォルクスワーゲン社の発表資料「資料①」「資料②」「資料③」より
いかがでしょうか。
「電気自動車が内燃式の自動車より環境に悪い訳はないだろう…」と思われていた方にとっては、衝撃的なデータだったのではないでしょうか。
実際、業界では、かなり物議を醸したそうです。
もっとも、このレポート、色々な思惑があって出されたものではないか?という見方もあるのだそうですが。
しかし、このようなデータを見てしまうと、「電気自動車の導入を目指す前に、もっと先にやるべき事がある」という気もしてきますよね。
恐らく、その通りなのでしょう。
では、何から、どうやって手を付けていけば良いのか。
なかなか、最適な取り組み方法・手順を策定するのは難しそうです。
そして、この辺りの難しさが、環境問題の解決が難しい一因でもあるように思います。
ぜひ、学校で環境問題について取り上げる際には、この辺りの事情についても触れて欲しいところです。
そして、近い将来、このような複雑な問題を解決してくれるエース人材が日本から生まれる事を期待したいものです。