ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

この一年間で進んだ「会社と個人の関係」を変える2つの動き

会社(組織)と個人の関係の変化

「勤め先としての会社」と「従業員としての個人」の関係は、徐々に変わりつつあります。

このような変化については、以前にも、このブログで取り上げた事があるのですが、新型コロナの影響もあり、この一年間で更に大きく変化したように思います。

そこで、今日は、特に注目したい「2つの動き」をご紹介します。

それは、

大企業における、副業との関わり方の変化

個人事業主への転換を前向きに受け止める社員の誕生

という動きについてです。


まず、「副業」について。

以前から、「副業を許可する会社の存在」や「副業を始めた個人の活動」は、良く耳にするようにはなってきていました。

ただし、そのような動きのメジャー化が大きく進んだように思います。

まず、副業人材を「送り出す」側である企業のスタンスですが、これまでは、「従業員の満足度を高める」「従業員に多様な経験を積んで貰う」などの理由を掲げて、「やりたいなら、会社としては認めてあげてもいいよ?」といったスタンスの所が多かったように思います。

それが、「ぜひ、副業して下さい」というスタンスで副業に向き合う会社が出て来ました

まずは、お堅いイメージの銀行業界。

みずほフィナンシャルグループが「週休3~4日制」を始めました(希望者のみという事になっています)。

報道などによれば、会社としてはコストカットも目的としており、みずほで働く日を減らす代わりに給与カットを行い、その分、他で働いて良いと正式に認めている、という理解で良いようです。

なお、週休3日制や週休4日制については、他の企業による採用も進んできています(ただし、他の企業では、理由を限定していたり、総労働時間は変わらないようにしているケースが多いようです)。

次に、新型コロナウイルスによる影響を大きく受けている航空業界。

全日本空輸(ANA)では、直接雇用による副業を正式に認めました。

すなわち、勤務時間外に他の会社の社員として正式に働けるようになったのです。

また、「サバティカル休暇制度」という、最長2年間休職できる制度も導入。

会社側の「仕事がないから、うちをアテにしないで」という声が聞こえてきそうです。

更に、「従業員を他社に出向させる(他社の指揮下で仕事をさせる)」という事も始めています(これは日本航空(JAL)も行っています)。

報道によると、家電量販店でCAの方が働いたりしているようですね。

これは、副業ではありませんが、会社が関与した「副業に近いもの」と言えるでしょう。

このように、雇い主側が副業を強力にプッシュする動きが生まれています。


また、副業人材を「雇う」側にも変化が見られました

例えば、日本のヤフーでは、副業人材を積極的に採用する方針を発表し、実際に2020年10月には100人を超える人材を受け入れたと報道されています。

さらに、皆さまがあまりご存じないかもしれない所だと、管内閣の目玉の一つと言われている「デジタル庁」の民間からの採用においても、「兼業可」「テレワーク可」という条件が発表されています。

お堅い役所で、このような採用が行われるようになった事自体、副業が当たり前の時代になってきた事を感じさせます。

ここまでが、「大企業における副業との関わり方の変化」という動きについてでした。


次にご紹介したいのは、「個人事業主への転換」という事に関する動きについてです。

「個人事業主への転換」とは、「これまで従業員として働いてくれていた人が、今後は、個人事業主として会社の仕事をする」というものです。

従業員という関係(雇用関係)が無くなると、会社としては様々なコストを削減する事ができますし、賃金保障をしなくて良くなります。

ですから、これまでもリストラの一環として、このような提案が会社側から従業員に対して行われる事はありました。

しかし、こういった事は、あくまで「例外的な話」であり、業績が危機的な会社でもない限り、大々的に、このような提案をするという事は考えられませんでした。

しかし、最近、有名企業が従業員に対して「個人事業主への転換」を提案し、そして、従業員の側でも受け入れる、という事例がありました。

具体的には、「電通」と「タニタ」の事例が有名です(タニタは2017年から導入)。

共に、従業員側は制度に応募する事で、「会社との雇用関係を終了」します。

そして、新たに、個人事業主として、会社との間で業務を請け負う契約を結びます(法人を設立する場合もあるかもしれません)。

すなわち、その会社の社員である事を止め、一事業者として独立する訳です。

独立した人は、当然、これまでは出来なかった、「他社と契約して仕事を貰う」という事が堂々と出来るようになりますので、実力によっては、これまでよりも稼ぐ事が出来るようになります。

その一方、「雇用契約」による保護は一切なくなります。

制度に応募した人の事情は、一人一人、異なる事でしょう。

しかし、少なくとも、「有名企業の正社員としてのメリットよりも、独立した場合のメリットの方が大きい」と考えて応募した事は間違いありません。

これまで「正社員になれない」と悩んできた人からすれば、信じられないような話だと思います。


どちらの動きも、「自分が所属するのは、就職試験で(または転職活動で)入社した会社だけ」という価値観が大きく変化していく事に繋がる動きであろうと思います。

この動きが続くと、近いうちに、「貴方の勤務先は?」といった、今は当たり前のように行われている質問がし辛くなる日が来るのかもしれません。

そして、それは企業の採用活動や個人のキャリアプランなどにも大きな影響を与えていく事になるのでしょう。