ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

選挙公約としての「カジノへの賛否」を経営の視点から考える

カジノ 選挙公約

もうすぐ投票日ですね。どの候補に投票しようか悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、選挙の候補者が掲げる「カジノ誘致への賛否」を、経営の視点から考えてみたいと思います。

言うまでも無く、有権者が候補者を選ぶ基準は様々でしょう。各有権者が、ご自身の考え方で選ばれれば良いと思います。

しかし、あまり知らない候補を一票を入れる事になった場合(残念ながら、そういうケースも少なく無い気がしますよね)、候補が掲げる「選挙公約」を参考に、誰に投票するかを決める場合も少なくないのではないでしょうか。

もっとも、「選挙公約」というほど明確なものを出している候補者ばかりではないようにも感じますが、このブログはそういった問題を議論する所ではないので、選挙公報に載っている主張は、基本的に選挙公約という事にさせて下さい。

 

さて、今回の選挙で候補者が出している選挙公約をざっと見ると、各候補、様々なメッセージを発信しています。

日本の選挙においては、有権者に十分な理解をして貰うだけの機会を持てる候補者は少ないでしょうから、各候補、相当に考えてメッセージを載せているのでしょう。いや、もしかすると違うのかもしれませんが、個人的には、そうあって欲しい…と思います。

 

候補者の選挙公約をざっと見ていて、一つ気付いた事がありました。

「カジノ誘致への賛否」についての記載です。

もちろん、そういった事に関心が低い(関係がない)エリアについては、そういった論点はあまり無いのでしょうが、関係ある自治体にとっては、相当に大きなテーマだとは思われます。

もちろん、このブログでは、このカジノ誘致問題をどう考えるべきなのか、という点については取り上げません。それは、皆様がご自身で考え、清き一票を候補者に入れて下さい。

しかし、「この問題を各候補者がどう扱うか?」という事は、経営者が行う経営判断と繋がる所があります。

 

各候補者が選挙公約を考える際、このカジノ誘致への賛否については、以下の3つのパターンが考えられます。

①カジノ誘致に賛成の意見を表明
②カジノ誘致に反対の意見を表明

そして、

③カジノ誘致に賛成とも反対とも表明しない

この3つです。

 

いや、もう一つあるだろう、と思われた方。鋭い。

④カジノ誘致に賛成とも反対とも取れるような意見を表明

こういうやり方もありますね。

 

さて、ここからが本題です。

皆様が候補者だったとしたら、どうされますか?

すなわち、カジノ誘致問題への賛否を、選挙公約において、どう表明されますか?

言うまでも無く、カジノ誘致への賛否を明確に表明した場合、その賛否に「逆の意見」を強く持つ有権者の票は失う事になります。

データは持っていませんが、この問題は、比較的、「絶対に賛成」や「絶対に反対」という明確な意見を持っている有権者の数が大きい問題ではないかと思います。

 

もちろん、候補者の側でも、様々な考え方があることでしょう。

「私は、自分の主張と違う意見を持っている有権者の票を失いたくないから、意見表明したくない」

「いやいや、私は、主張をしっかりとする事で、その問題について主張を同じくする有権者の票をガッチリと確保したい」

どちらもの考え方も、正しいのでしょう。

しかし、選挙においては、単なる票に関する損得勘定だけではなく、各候補者には自分自身の考え方を貫いて、選挙公約で表明する内容を決めて欲しい、という気もします。

 

しかし、これが経営だったらどうでしょうか。

「選挙公報に載せる内容の選択」は、会社の場合には「顧客にアピールする内容の選択」になります。お店の場合には、店頭に置くメニューだったり、店が掲げるキャッチフレーズだったりに相当します。

先ほど、選挙公約の場合には、「損得勘定だけでは考えて欲しくない気もする」と書きましたが、経営の場合はどうでしょうか。

経営の場合、「どういう選択をすれば、一番、客が来てくれるか(売上が上がるか)」という合理的な判断をして責められる事はないでしょう。もちろん、あまりに利益ばかり追求しているような会社は、消費者からそっぽを向かれるとは思いますが。

例えば、飲食店で「うちは辛さにこだわっています」と大きくアピールすれば、実際には辛くないメニューがあったとしても、辛さが苦手な人はほとんど来なくなるかもしれません。その代わり、辛さを重要視する人は、遠い所から、わざわざ来てくれるようになるかもしれません。

選挙におけるカジノの誘致問題と同じように、ある点について強い主張をすると、一部の人の心はガッチリと掴めるかもしれませんが、方向性がずれている人は逃してしまう、という事がおきます。

そして、通常、こういう経営判断をする時には、「その主張をする事で獲得出来る売上」と「その主張をする事で失う売上」を比べて判断します。

カジノ誘致の問題のように、Yes/Noで選べるような問題であれば、「Yesの主張」と「Noの主張」、それぞれについて検討する事になるでしょう。その上で、「YesもNoも主張しない」という選択肢と比較して、自社の選択を決定する事になります。

すなわち、

「ある主張をした場合に、高い確率で自社を選んでくれる人数がどの位いるのか」

「その主張をしないでも、自社を選んでくれる人数はどの位いるのか」

といった分析を行い、自社の選択をすることになります。

さらに、こうした検討をする中で、「YesにもNoにも見えるような主張をする」といった玉虫色の選択が出てくる事もあるでしょう。

もちろん、経営者が持つ経営理念のようなものの影響を受けて、損と解っている方を選ぶ会社もあるでしょう。

しっかりと考えている企業の「顧客へのアピール」は、こうして出来上がっています。

 

さて、話を選挙公約に戻しましょう。

同じように、各候補者のカジノ誘致への賛否を考えてみると、この問題への賛否を明確にしている候補者は、主張が一致しない有権者の票を失う覚悟で、賛否を表明している事になります。

この問題で自分の主張と意見が一致する事によって得られる票を確保する事が、当選ラインを超える為に重要だと判断した訳です。

逆に、カジノ誘致への賛否を表明しなかった候補者は、主張が相反する有権者の票を失いたくなかった、とも考えられます。そして、他の点で勝負する(自分を選んで貰う)事を選んだのかもしれません。

実際には、推薦を受ける政党との関係などもあるでしょうから、この通りではないのでしょう。しかし、こうした事を踏まえて、各候補者の選挙公約を眺めてみると、各候補者が、「有権者をどのように分析しているのか」が少し見えてくる気がします。

 

「自分の意見と候補者の意見が合っているのか」という視点で候補者を選ぶ事は大切でしょう。しかし、その「候補者の意見」をみる時には、「候補者が、有権者をどのように分析しているのか」という事についても、少し気にしてみても良い気がします。

また、会社の経営に携わっている方は、「自分の票を誰に投ずるのか?」という事を考える中で、自社の経営における、潜在顧客への「アピールポイントの選択」を見直す機会にしても良いかもしれません。

有権者の立場で真剣に悩むということは、日頃は忘れがちな、「顧客の立場で、自分のお金を使う店を選ぶ」という立場に自然と立たせて貰えている訳ですから。