ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

鉄道の廃線は、正しく準備すれば懸念しなくても良いのでは?

廃線


先日、ある地方の方とお話をしている時に、

「自分が事業を行っているエリアで、今後、廃線(鉄道路線が廃止される事)が進みそうで困っている」

という話が出ました。

その方は、「廃線が進むと、その地域の経済が落ち込む」と懸念されていました。

そして、「廃線にならないように、鉄道会社に対して、様々な運動をしていかないと」と仰っていました。

しかし、10年前であれば違ったでしょうが、今、鉄道会社による廃線をそこまで恐れる必要はないようにも思うのです。

そして、鉄道維持の為に莫大なお金をかけるくらいであれば、もっと、違う所にお金をかける事をお勧めしたいと思うのです。

他の地域の方に参考にして頂けるかもしれませんので、この時の会話をご紹介させて頂く事にしました。


まず、その時の会話を再現してみます(その方を、仮にAさんとします)。

Aさん「もしかすると、10年以内に、地元の駅がなくなるかもしれない」

私「もしかして、廃線ですか?」

Aさん「そうなんだよ」

私「仕方ないですね。先日、JR札沼線(北海道)の一部区間も廃線になったと聞きました。」

Aさん「外の人から見れば、『仕方ない』で済むのかもしれないけど、地元にとっては、大変な問題なんだよ!」

私「それは失礼しました。Aさんも、その路線は良くお使いになっているのですか?」

Aさん「いや。私は使わない。車があるからね。」

あれ。地元の人は使わないのですね…

私「では、それほど困らないのでは?」

Aさん「いや、そんな事はない。廃線になったら、困るんだよ。」

私「地元のイメージとか、そういう問題でしょうか。」

Aさん「いや、そんなレベルの問題じゃない。鉄道が通っていないと、人が来てくれない。そして、人が来てくれないとビジネスがまわっていかないんだよ。」

私「なるほど、外部の人が来てくれないから…という事なのですね。」

廃線になる見込みがあるくらいですから、今でも乗客数は限られているのでは…と思ったりはしましたが、それは口には出しませんでした。実際に、その数少ない乗客が大切なのかもしれませんので。

そして、違う方向から考えを探ってみる事にしました。

私「では、廃線を避ける為に、今後、どのような活動をされる予定なのですか?」

Aさん「やはり、まずは鉄道会社に対して、廃線にするのを止めて貰うように交渉する予定だ。」

私「でも、赤字だから廃線になるという予想ですよね。お願いだけで避けられるとは思えませんが。」

Aさん「そうだな。お金は、ある程度地元で負担しないといけないかもしれない。」

私「どの位のお金を見込んでいるのですか?」

Aさん「○○円くらいは必要かもしれない。」

金額は伏せますが、かなりの額でした。

そこで、ちょっと反論してみる事にしたのです。

私「別に廃線になっても良いんじゃないですか?」

Aさん「何を言ってるんだ。鉄道は必要だと先ほど言ったばかりだろう!」

私「しかし、鉄道の路線維持には、かなりの手間がかかります。だから、鉄道会社としては、十分な旅客数が見込めない路線は維持したくないのです。」

Aさん「だから、地元でお金を負担する事は考えていると言っているだろう。」

私「そのお金、もったいないと思いませんか?」

Aさん「?」

私「本当に、外部の人の為の足(移動手段)を確保するのが目的なのであれば、もっと違う方法があると思いますよ。」

Aさん「??」


さて、私が何を言いたかったのか、お解りでしょうか。

鉄道路線の維持には、かなりのお金がかかります。

それは、「線路や架線、安全の為のシステム(ATSなど)といったハードウェアのメンテナンス費用が高い」や「運行を支える為の人員が多く必要」といった事情の為です。

そして、他の移動手段と比べた場合の「鉄道のメリット」としては、「大量輸送が可能」という点が大きいと言われています(他にも、環境負荷が低い、といったメリットも指摘されています)。

もし、このメリットが必要ないのであれば、鉄道にこだわる必要は無いはずなのです。

私「もし、本当に足(移動手段)が必要という事なのであれば、別に鉄道にこだわる必要はないのではないでしょうか。」

Aさん「?」

私「廃線にした路線を使って、自動運転の車を走らせてはどうですか?」

Aさん「…」

私「地元のお金を投資するのであれば、その方が、よほど前向きだと思いますよ。もっとも、デメリットを最小限に抑え、メリットを高める為には事前の活動が必要になるとは思いますが。」


この私の提案、別に何も珍しくはありません。

被災した路線の代替として、その区間を車で運行した事例は既にあります(気仙沼線BRT、大船渡線BRT、日田彦山線BRT)。

「列車の代わりに車」というアイデアは、全く珍しくないのです。

そもそも、鉄道がないエリアでの公共交通機関の代表格は「路線バス」です。

そして、地域によっては、かなりの遠距離を路線バスが走っている事もあります。


しかし、バスには、いくつかの問題点が指摘されています。

例えば、

・定時運行が難しい

・外から訪れた人が使いづらい

・一般的な地図に路線が載らない

・快適性(乗り心地)が劣る

などです。


これらの問題点がある為、鉄道維持を望む人もいるそうです。

しかし、鉄道として運用されていた設備をそのまま引き継ぐのであれば、これらの問題点は解決出来る可能性がありそうです。

まず、従来の駅や線路跡地を使う事で、「路線の解りやすさ」「定時運行」「快適性の確保」などの問題は解決が期待できます。

更に、事前に地図メーカーなどとの調整は必要でしょうが、従来と同じように、地図などに路線を載せ続けて貰う事も不可能ではないでしょう。

多くのデメリットは回避できる可能性があるのです。


ただし、従来よりもプラスになる部分がないと、前向な議論にはならないでしょう。

やはり、「現状維持」を望む層が一定数いる事は前提とすべきです。

そこで必要となるのが、「自動運転の導入」という新しい要素なのです。

自動運転による運行が実現できれば、一便あたりの人件費が削減できる可能性があります。

結果、「従来よりも大幅に便数を増やす」という事が実現できる可能性があるのです。

そして、鉄道路線を転用するのであれば、自動運転による運行の難易度は大幅に下がります。

本気で取り組めば、早い時期に実現は可能でしょう。


ちなみに、廃線間近の鉄道路線の便数は、かなり限られているのだそうです。

前述のJR札沼線の廃線区間の最後の便数は、なんと1日1往復だったとか。

これでは、鉄道があっても、地元への貢献は限定的だったはずです。

途中駅で寄り道をしながらの旅行すら出来なかった訳ですから。

そのような現実を直視すれば、「より前向きな未来に向かって、自ら動く」という行動も選択肢に入ってくるはずです。

また、ここで書いたような運行を先行して実現した地域には、きっと「先行者利益」として、「その事例を見る為に他の地域から客が訪れる」や「そのノウハウを販売して、投資を回収する事ができる」といったメリットもあるはずです。

ぜひ、そこまで考え、前向きに取り組む地域が増える事を願っています。