先日、アパレルショップ(洋服を売る小売店)の現場で、店員と社長が言い争いをしている所に出くわしました。
言い争いの内容は一言で言ってしまうと、
「セールになると、洋服の値段が下がるのは当然なのか?」
というものです。
皆さまは、この問に答えられますか?
セールになると値段が下がるのは当然、と思われている方も多いと思いますが、この話、実は、結構、奥が深いのです。
アパレルに限らず、「正しい値段」「適切な値付け」などに関心がある方は、一読頂き、この点について考え直す機会にして頂くと、今後、商品を見る目が少し変わるかもしれません。
セールになると値段が下がるのは当然ですか?
言い争いの発端は、アパレル店員の、こんな一言でした。
店員A「社長、どうして、こんなに値段を下げないといけないのですか?」
ちょうど、セールの後半に向けて、更に値下げをする所でした。
社長「そりゃ、もうセールも後半だからね。仕方ないじゃない。」
どうも、店員は納得出来なかったようです。収まりません。
店員A「でも、この商品、先月まで○○円(本当は、金額が入ります)で売っていたんですよ。どうして、ちょっと時間が過ぎると、値段が下がるのですか?」
この店員は納得いかないようです。
値段が下がって売りやすくなるのは、本来、販売員としては有り難い事だと思うのですが、この店員、安く売るのが嫌なようです。
もしかすると、自社製品を愛する素晴らしい店員なのかもしれません。
社長「君ね、スーパーだって閉店間際になったら値段下げるでしょ。それを不思議に思った事ある?」
この社長の回答を聞いて、私は「あちゃ~」と思いました。
が、もう後の祭りです。
店員A「スーパーで値段が下がるのは、翌日、もう売れないからです。でも、うちの製品は明日になっても悪くなりません。」
予想通り、この店員をヒートアップさせてしまいました。
そして、他の店員まで、この話し合いに参戦してしまう事になりました。
店員B「社長、じゃあ、このバッグも一緒に値下げしましょう。この洋服と一緒に売り始めたので、同じくらい時間たってます。」
社長「それはうちが作ったやつじゃなくて、○○(仕入先の名前が入ります)から完成品を買ってきたやつだから、値段下げると△△しちゃうんで…」
△△の所に入る説明は、皆さまの想像にお任せします。
店員B「古くなったら安くするっていうなら、一緒に下げましょうよ。セール後半なんですから、これも売っちゃいたいです。」
社長「いや、それは値段下げずに売って欲しいんですけど…」
店員B「いや、ここまで売れてないんですから、値段下げないと売れないですよ。」
先ほどの社員も会話に割り込んできます。
店員A「社長、バッグの値段を下げないんだったら、洋服も、値段、ここまで下げるのは止めましょう!」
想像して頂けると思いますが、現場は、もう収拾がつかない状況になってきました。
セールで値段が下がる理由を考えた事がありますか?
現場の話は、一旦、ここで止めますが、皆さまは、「誰が正しいか」お解りでしょうか。
私の立場だと、とりあえず、「社長、勘弁してよ~」という感じなのですが、ルーティングワークで業務を行っていると、こうなってしまうのも理解は出来ます。
そして、商売をしている立場であっても、意外と、「なぜ、値段を下げているのか」という事について、しっかりと考えた事がない人は多いのかもしれません。
もちろん、「値段を下げないと売れないから、値段を売れる所まで下げる」という考え方は正しい訳ですし、日頃は、それだけでも問題ないでしょう。
ただ、改めて、部下から質問されたり、「どの商品を、どのくらい、値段を下げるのか」という議論を真剣にしようとすると、ボロが出てしまうかもしれません。
値段を下げるのは自社製品が素晴らしいから?
さて、話を現場に戻します。
とりあえず、現場を収めないといけません。
皆さまが、この場にいたら、どんな話をして、現場を収めますか?
私が出て行ってもイマイチなので、ちょっと策を講じる事にしました。
まずは、一旦、休憩を入れて、皆に落ち着いて貰う事にしました。
そして、先輩社員(店員Cとしましょう)を呼んで入れ知恵をした上で、店員Cに話をして貰う事にしました(話は少し修正しています)。
店員C「Aさん、Bさん、さっきの話だけど、その服の値段を下げるのは、うちの店が、その商品に高い商品価値を付けて売ってきたからなのよ。むしろ、今、値段を下げないって事は、恥ずかしいことだと思わなきゃ。」
店員Aも店員Bも意味不明、という顔をしています。当然でしょうね。
店員Cは続けます。
店員C「Aさん、貴方は「その商品の価値」って何だと思ってるの?シーズン始めに、どうして○○円(定価)で売ったの?」
店員A「セールじゃなかったから定価で売って当然では…」
店員C「いや、そういう事じゃないでしょ。その商品を買った事で、そのお客様は、今シーズン中、「トレンドを取り入れた装い(格好)」が出来た訳でしょ。それが、貴方が売った価格の大部分の価値。でも、もうシーズンは終わろうとしている。今と、シーズン始めで、その価値は同じだと思う?」
店員Cは、更に続けます。
店員C「もし、その商品の値段を下げないって事は、最初からトレンドを押さえていなかったから価値が下がっていないって事になるのよ?そんな恥ずかしいものをお客様に勧めていたの?」
いや、素晴らしい。先輩社員としての貫禄もあって、誰も文句を言い出せなくなっています。
店員C「もちろん、来シーズンでも通用するくらいの商品価値があるっていう考え方は出来るし、それは素晴らしい事よね。でも、少なくとも、商品価値が今シーズンの最初と同じって事は無いと思わない?」
更に続きます。
店員C「だから、値段を下げる事を恥ずかしがる必要はないの。そして、値段を下げないバッグは、洋服と一緒にディスプレイする為に、無難な商品を仕入れていただけでしょ?だから、シーズンが終わっても価値は下がっていないの。だから、来期も同じ値段で売れば良いのよ。」
さすがベテラン。社長の事もうまくフォローしてくれました。
若干補足しておくと、実は、この店員Cの理屈には、単純に正しいとは言えない部分があります。ただ、少なくとも、この話で、このお店の混乱は収まりましたし、本人も解って言っているのでしょう。
さて、現場の話し合いは、これで終わりです。皆さまは、どのようにお感じだったでしょうか。
言われてみれば、当たり前の部分はあったと思います。
しかし、意外と、「なぜ値段が下がっているのか」という理由については考えていなかった事に気が付かれた方も多いのではないでしょうか。
今後、ちょっと気になる商品を店頭で見つけた時には、「その商品は、時間と共に値段がどのくらい下がるべきなのか」と考えてみてはいかがでしょうか。
もしかすると、その商品の価値について、何か発見があるかもしれません。