ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

横浜へのカジノ誘致という判断を企業の経営判断の視点から考える

横浜のカジノ誘致に関する影響


横浜市長がカジノ誘致を表明しました。

地方自治は住民が主役です。カジノ誘致の是非については、横浜市民が中心となって様々な検討がなされ、決定されれば良いと思います。

しかし、今回、市長が発表した「カジノ誘致の理由」については、経営に携わる者として、違和感を感じるところがありました。ですので、今日は、その辺りのお話を。

横浜市民の皆さんが議論される上でも、参考にして頂ければ嬉しく思います。

違和感を感じた横浜市長のカジノ誘致理由

今回の横浜市長のカジノ誘致の理由で気になったのは、次のように発表が読めてしまった為です。

・カジノを誘致する理由は、「大幅な税収アップ」が見込める為

・横浜市が抱える諸問題を踏まえると、カジノを誘致しないと財政的に厳しい

確かに、横浜市が財政的に恵まれていないのは確かなようです。しかし、それでも、こうした主張を堂々とされた事には驚いてしまいました。

横浜市民であれば、「他に道はないから、カジノ受け入れを納得しろ」と言われている気分になったのではないかな、とすら思ってしまいました。

横浜市のカジノ誘致を企業経営に置き換えてみると

皆さまもご存じの通り、企業経営においても、様々な判断を迫られます。

その多くは、メリットとデメリットが両方あり、それらを天秤にかけて判断します。

しかし、忘れてはいけないのは、「この判断をするしかない」という状態は、原則、あり得ないという事です。

もし、今回の横浜市のカジノ誘致の考え方を、一般企業の経営に強引に置き換えると、こんな感じになるでしょうか。

・自社は業績が悪く、このままでは企業の継続が難しくなることが想定されている

・そういった状況において、投資すれば、「ほとんど何もしなくても、必ず儲かる」と言われている案件が紹介された

・その案件による収入は、既存の事業による収入を大幅に上回る予定である

皆さまが、その会社の関係者であれば、その事業への投資に納得されますか?

案件が怪しい、といった視点はおいておくにしても、もし、その案件に投資した場合、

・その会社は、まったく違う会社になってしまいそうだ
(収入源が大幅に変わる訳ですから、当然ですよね)

・その前に、「本業を何とかする」という考え方はないのだろうか

といった感想を持たれるのではないでしょうか。

その通りだと思います。

もっとも、その投資案件が、本気で「これから取り組んでいきたい新規事業」なのであれば、それは問題ないでしょう。

これまでの本業が不調の場合、その本業を改善する検討は行うべきだとは思います。しかし、その一方、新規事業を考える事は、それが、その企業の総意なのであれば、もちろん、それは誰も止めるべきだはないと思うからです。

しかし、今回の例は、何か違いますよね。

カジノ誘致による収入がなくなったら

一つの考え方ですが、こうした案件についての是非についての判断は、

「美味しい話(税収)がなくなっても、それでもやりたい案件なのか」

「いつでも止められるのか」

といった視点を持ち込むのが有益です。

「税収の為にやらないといけない」という判断は、やはり間違っていると思うのです。

といいますのは、「税収は今後、変わるかもしれない」からです。

カジノの運営状態にもよるでしょうし、そもそも、税制が変わってしまうかもしれません。

横浜市にとって、「本業」に相当する、「普通の会社や市民からの収入」は、税制がどう変わろうが、大きく変わる事はないでしょう。

それは、そうした主体に対して、市がサービスを提供するのは当然(市が存在する意義に近いところ)であり、同時に、受益者負担の考え方からいっても、そうした主体がキチンと負担すべき税金だからです。

もちろん、だからこそ、大きく儲ける事が難しい収入源でもあるわけです。

しかし、今回、議論となっているような「大きく稼げる案件」は、そうした部分が少し怪しいように思います。

ですから、仮に、カジノが儲からなくなった場合、税負担を下げる事になる可能性はあるように思うのです(そうしないと撤退されてしまう)。

そうなった場合、それを想定していない誘致であれば、困った事になってしまうでしょう。

カジノ誘致はどうあるべきか

横浜市がカジノを誘致し、そして、そのカジノに関する税収が莫大なのであれば、それは、「横浜市が市民からの税収を重要視しない」という状態に繋がるかもしれません。

そして、それは、「横浜市は市民よりもカジノを重視する」という将来に繋がるかもしれません。そうを考えると、カジノの誘致は、横浜市という「地方自治体の意思決定の姿すら変えてしまう」危険性すらはらんでいるのかもしれません。

または、カジノには、実は「大きなコスト」が隠れており、別に美味しい収入源ではないのかもしれません。すなわち、受け入れた以上は、それくらいの税収があって当然(そうでなければ、割に合わない)なのかもしれません。

そして、その場合、そのコストは、数年後、数十年後に白日の下にさらされるのかもしれません。

どちらにせよ、地方自治体が抱えるには、メリットもデメリット(リスク)も大きすぎるように思います。

であれば、カジノに関する税収は、特別に国への収入だけにしてしまった方が良いのかもしれません。もちろん、その代わりに、カジノ誘致に関して発生した全ての責任も国が負い、費用も国が負担する事にすれば良いでしょう。

その条件で、それでも誘致したい地方自治体が誘致すれば良いのではないでしょうか。

確かに、一大観光地を人工的に創り出せる事には間違いないでしょうから、直接的な税収を無視しても、一定のメリットはあるように思います。

この条件でも、横浜が誘致を続けるのかどうか、続けるのであれば、その理由は何なのか、聞いてみたいように思います。