ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

「売上がない時間帯は店を閉める」という経営判断の愚【頭の体操】

飲食店(カフェ)の時間帯による売上と経営判断


今日は、

ある飲食店が、売上の少ない時間帯の営業を止めた所、予想外に採算が悪化した

というお話を。


それほど難しくない謎解きだと思いますので、ぜひ、最後まで読み終わる前に「予想外に採算が悪化した理由(当方で確認できた限りで3つあります)」を当てて頂ければ、と思います。


新型コロナウイルスの影響もあり、様々な改善活動に取り組んでいるお店は多いです。

このお店も例外ではなく、採算を少しでも改善する為に、「時間帯ごとの売上を集計」し、「採算が取れていない時間帯の営業を止める事にする」という決断をしました。

このお店の営業形態は、カフェをイメージして下さい。

そして、具体的な施策としては、

①昼営業と夜営業の間に休憩を入れるようにする(それまでは通し営業)

②夜の閉店を早める

という2つの変更を行う事にしました。

閉める事にした時間帯の売上は、共に、微々たるものであったようです。

しかし、実際にこの施策を実行した所、採算は改善するどころか、大幅に悪化してしまいました。

その理由(採算が予想外に悪化した理由)、皆さまも、ぜひ、考えてみて頂ければ。

外部から考えると「当たり前」とも思えるような点ばかりなので。

※この案件、実際には人聞きの案件なのですが、ここでは読みやすいように、以下、「私とオーナーとの会話」のスタイルを取り入れて紹介していきたいと思います。


私が確認出来た限り、採算が悪化したのには、「3つの理由(この店のオーナーにとっては誤算)」がありました。

順にご紹介していきましょう。


①関係ないはずの時間帯の客数まで減った

オーナー「営業時間を変更した後、1日あたりの来客数が減ってしまった。偶然だろうか。」

私「営業時間を短くしたのですから、当然でしょう。」

オーナー「いや、短くした事による分を超えて減っているんだ。」

私「どのように考えて、営業時間を短くする事にしたのですか?」

オーナー「分析した所、人件費すら稼げていない時間帯が、1日に2回あった。15時~17時と22時以降だ。だから、この時間は店を閉める事にした。」

私「その時間帯の売上が失われるだけで済むと予想されていた?」

オーナー「違うのか?」

私「お店は、カフェ系でしたよね。お客様の滞在時間も決して短くない…」

カフェを利用されている方であれば、もうお解りですよね。

物販・テイクアウトであれば別ですが、店内飲食を主体とした営業形態であれば、売上があった時間を見る時には、お客様の店内滞在時間を踏まえなければなりません。

例えば「店内で1時間過ごしたい」と考えている人が多い店であれば、23時の閉店を22時に繰り上げれば、22時台の売上だけではなく、21時台の売上の多くを失う事になります。

経営が厳しくなっていたオーナーは、そんな当たり前の事にまで頭がまわらなくなってしまっていたようです。


②予想外に減らない人件費

オーナー「おまけに、店を閉める時間を長くしたのに、思ったより従業員の勤務時間が減らなかったんだよ。」

私「店が暇な時間帯は、従業員は遊んでいるだけだとお考えでしたか…」

これも、ピンと来た方は多かったのではないかと思います。

店内でしっかりとした調理をしている飲食店であれば、昼と夜の間の時間帯は、仕込みなどの大切な時間です。

客が来ないからといって店を閉めたとしても、作業が完全に無くなる訳ではありません。

仕込み以外にも、閉店中に様々な作業(配送対応、発注、予約対応など)がある店は少なくありません。

もっとも、これは業種と時間帯にもよります。

店内に客がいない間は、本当に作業がない業種もあるでしょうし、夜の閉店時間を早めた場合には、そのまま人件費がカットできるケースも少なくありません。

このオーナー、現場の作業すらピンと来ていない状況だったようですね。


③予想外の熟練店員の退職

オーナー「おまけに、かなり、従業員が入れ替わってしまって。どうも、優秀な従業員ばかり抜けてしまって、効率まで落ちているようなんだ。」

私「それは仕方ないでしょうね。」

これも、お解りになった方、多いと思います。

優秀な従業員ほど、「高い給料を得たい」のはもちろん、「経験を積んで、自分のスキルを向上させたい」と考えていたりもします(その他、「経営が危なくなってきた所は嫌」という人もいます)。

このお店が、「営業時間を短縮した結果、稼げなくなった」のであれば、もっと稼げる店に移る従業員がいるのは当然でしょうし、もし、給与は保障していたとしても、「効率的に経験が積めなくなった」と考えて、辞める事を決断した従業員がいてもおかしくありません。

そういった従業員の気持ちが理解できていれば、営業時間を変更する前に、しっかりと話し合いなども行えたのでしょうが、このオーナーは、そこまで気がまわらなかったようです。


以上が、私が確認できた3点です。

恐らく、読者の皆さまも「納得」というポイントばかりだったのではないでしょうか。

※もし、他の要因の可能性を思いつかれた方は、ぜひ、コメントなどで教えて頂ければ幸いです。参考にさせて頂きたいと思います。


この事例から学べる事としては、「当事者のオーナーは、素人でも気づけるような事が気づけなくなってしまっていた(頭がまわらなくなっていた)」という事でしょうか。

実際、そういったケースは少なくないように思います。

特に、新型コロナのような外部要因で急に経営が悪化した場合には、精神的に参ってしまって、そのような状態は起きやすいようにも思います。

これをお読みの経営者の方は、ぜひ、お気を付け下さい。