「新型コロナウイルスの問題は、ブラックエレファントである(であった)」といった表現を、時々、目にするようになりました。
ですが、ブラックエレファントという用語は、未だ、一般的な用語ではないと感じています。
この為、今日は、この「ブラックエレファント」という用語を紹介させて頂こうと思います。
また、「ブラックエレファントに属する問題がなぜ解決されないのか(対応されてこなかったのか)」という点についても、主に経営の立場から解説を試みてみたいと思います。
ブラックエレファントとは
ブラックエレファント(black elephant)とは、「ブラックスワン(black swan)」と「エレファント・イン・ザ・ルーム(elephant in the room)」という2つの用語を組み合わせたもので、「いずれ大変なことになるとわかっているのに、なぜか見て見ぬふりで、誰も対処しようとしない脅威」という意味です。
「ブラックスワン(直訳は黒い白鳥)」という用語は、ビジネスでは比較的メジャーな用語であり、「想定外の重大な問題」といった意味です(黒い白鳥なんて、滅多なことではお目にかかれなさそうですよね?)。
そして、その「スワン(白鳥)」を「エレファント(象)」に変化させたのが、「ブラックエレファント」という用語な訳です。
「エレファント・イン・ザ・ルーム」は、英語の辞書にも載っている言葉で、「誰もが知っていながら口をつぐむこと」といった意味です。
そして、その「エレファント・イン・ザ・ルーム」という用語において、「エレファント(象)」は「存在している事が明白である象徴」として使われています(部屋に象がいれば、見逃すはずがないでしょ?といった感じですね)。
ですから、組み合わせると、「存在しているのは明白だが、皆が対応していない(してこなかった)重大な問題(リスク)」といった意味になる訳です。
これまでは、主に環境問題に関して、この用語は使われてきました(米ジャーナリストのトーマス・フリードマンが環境問題について使ったのがきっかけと言われています)。
※ブラックエレファントの意味はイミダスより。
ブラックエレファントの例
「ある問題が、ブラックエレファントと言えるかどうか」については、明確な基準がありません。
この為、「何をブラックエレファントに属する問題と考えるか」については、人によって幅があります。
しかし、以下のような問題については、ブラックエレファントに属する問題であると考えられている事が多いように思います(重大な問題が起きる可能性がある事は広く知られており、かつ、対応は十分には進んでいない)。
・多くの環境問題
・新型コロナウイルスなどの感染症対策(以前から問題は指摘されてきましたが、新薬の開発などはあまり進んできませんでした)
・地震への対策(巨大な地震が発生する可能性がある事は歴史からも解っていましたが、その対策は十分ではなく、東日本大震災などで大きな被害が出てしまいました)
・火山の噴火への対策(日本でも富士山などが噴火する可能性は指摘されていますが、実際に噴火した場合の対策は十分ではないと言われています)
また、経済の問題としては、「リーマンショック」もブラックエレファントであったと言われています(返済に問題が起きる可能性のある住宅ローンが多く存在している事は認識されていたにも関わらず、対応は十分に行われていなかった為、大問題になった)。
ブラックエレファントが解決されない2つの理由
ブラックエレファントの問題は、多くの人に認知されています。それにも関わらず、対策(対応)は進んでいません。
「問題が分かっているのに、それに対応しない人達は何をやっているんだ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、対応が進んで来なかったのには理由があります。
具体的には、以下の2つが理由として考えられます。
理由①:対応に積極的になれない事情がある
積極的な対応が行われない背景を理解して頂く為に、「感染症への対応」を例として取り上げてみます。
感染症流行への対策としては、薬を開発しておく事が有効です。
しかし、製薬メーカーは、その為の新薬開発を十分には行ってきませんでした。
それはなぜか。
感染症の薬を開発する為には、多額の費用がかかります。
しかし、それだけの費用をかけても、十分な効果の見込める新薬の開発に成功できるとは限りません。
また、新薬の開発に成功したとしても、利益への貢献度合いが限定的である(投資が十分に回収できない)とも考えられてきました。
この為、感染症の為の行動(新薬開発の為の投資)は、他の分野と比べてリスクが高いと考えられてきたのです。
そして、製薬メーカーも利益を追求しなければならない民間団体の一つです。
特に、経営陣は、株主から「利益をアップさせる」という事を求められています。
この為、どうせ開発の為にお金を使うのであれば、「他の分野の為にお金を使った方が良い」と考える製薬メーカーが多かったのです。
ここまでの内容を読んで、「重大な問題なのであれば、企業は利益を度外視して取り組めば良いではないか」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、自分が勤めている会社が、実際にブラックエレファント問題に取り組み、その結果として、「業績が悪化してしまい、給料カットを行う事になった(最悪、倒産して解雇されてしまった)」としたら、どうでしょうか。
現行制度のもとでは、なかなか企業に自発的な取り組みを期待するのは難しい面があるのです。
理由②:対応しないといけない問題が多すぎる
また、「世の中には、対応しないといけない問題が多い」という理由もあります。
企業であっても公共団体であっても、資金や人材には制約があります。
そして、より緊急性の高い問題に対応しているうちに、ブラックエレファントに属する問題への対応は後回しになってきた、という面もあるのです。
「問題が存在すると解っている」という事と、「その問題に対応できる」という事は別ものなのです。
この問題についても、「企業は無理でも、国や地方自治体が取り組めば良いではないか」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、国や地方自治体が対応するにしても、資金は必要です。
税収には限度がありますので、取り組む事業には優先順位を付けざるを得ません。
仮に、政府が「ブラックエレファント問題に取り組むから、税金を増やす(税率を上げる)」と発表した場合、その行動をどれだけの人が応援出来るでしょうか。
なかなか難しい問題なのです。
ブラックエレファントにどう対応すべきなのか
世の中には、多くのブラックエレファントの問題が存在しています。
そして、前述の「ブラックエレファントの問題への対応が進まない理由」を踏まえると、今後も、そういった問題が自然に解決されていくとは考えづらい面があります。
ブラックエレファント問題への対応が進まないのは、民主主義や資本主義といった「現行制度の限界」と考える人すらいます。
しかし、ブラックエレファントの問題の多くは、解決しなければ(準備が出来なければ)、仮に、私達が生きている間に問題が起きなかったとしても、将来の世代が被害を被る可能性が高い問題群です。
ですから、最低限、ブラックエレファントの問題が解決していく為の道筋を作る為に、「問題に取り組む事を様々な主体に義務づける」や「取り組むモチベーションを上げるような制度を創設する」といった事は検討していかなければなりません。
そういった「ブラックエレファントの問題が解決されていく為の仕組み作り」は、今を生きる私達が、「将来の世代の為に可解しておかなければならない義務である」とすら言えるのではないでしょうか。